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AI×働き方改革の鍵は「継続的な運用」にある

#AI

#DX

2017/10/11

ここ数年で、AI(人工知能)は飛躍的に進化し、ビジネスの分野への活用も広がりつつあります。大きな注目をあつめるAIですが、実際にどのような現場で、成果をあげているのでしょうか。サッポロホールディングス株式会社と野村総合研究所(NRI)は共同で、AIシステム「TRAINA(トレイナ)」を活用した間接部門の業務効率化を図る実証実験を開始。問い合わせ対応業務が45%削減、情報検索時間が80%短縮などの効果が認められ、現在は本格展開のフェーズに移っています。新技術を用いた業務改革の進め方について、両社の担当者に話を聞きました。(写真左からサッポログループマネジメント グループIT統括部河本英則氏、NRI 産業システム事業一部大石将士、所属は掲載当時)

 

経営陣に想いをぶつける機会

 

問い合わせ対応や社内資料の作成などの内勤業務に追われ、顧客訪問など本来の業務に十分に時間が割けないという状況は、多くの会社に見られる課題です。今回の実証実験は、その解決手段として、AIなどの新技術を使って効率化が図れないかと考えたことがきっかけと、サッポログループマネジメントの河本英則さんは言います。

 

「サッポロビールは社内にチャレンジ提言制度というものがあり、論文審査を経た後、サッポロビールの全経営者の前でプレゼンテーションの機会が与えられます。経営者とじかに話をするステージに立てるのは重要だと思い、応募しました」

 

市場環境や自社の実態を踏まえた根拠の提示と目的設定、AIを用いた仕組みづくり、効果測定や検証、その後の運用まで首尾一貫した提言が評価され、河本さんは実証実験にこぎつけました。同社の溝上俊男社長、石原睦取締役も「どんどんやれ」と背中を押してくださったそうです。

 

AI活用には周囲を巻き込もう

 

2016年12月~2017年4月に行われた実証実験では、社内問い合わせ管理サイトでFAQを一元管理する仕組みを作っていきました。担当者にFAQを整備してもらうために河本さんが注力したのは、実施する目的とアウトプット・イメージを伝えること。AIを介せば、情報を探す手間が省け、検索スピードが上がり、問い合わせ自体が減っていく。そうした効果を実感できれば、作りっ放しで終わらず、継続的に運用できると考えたのです。FAQの最新化を永続的に進めるために、2017年7月にFAQマネジメント研修も開催しました。

 

「業務改革をやりきるためには、想いがないとうまくいきません。私は周りの人々を巻き込むために走り回り、システムづくりは大石さんに任せました。グループIT統括部の仕事は企画や業務提案が主であり、システム開発は基本的にアウトソーシングをしています。当社のシステム業務に長年携わってきた大石さんは、状況をご理解いただいているので、うまく役割分担でき、実証実験もスピーディーに進みました」と河本さんは言います。

 

「一般的なシステムと違って、AIは使いながら精度を上げていく部分があるので、現場の方々を巻き込むことが特に重要です。最初はうまくヒットしないことがあっても、中長期的な目線で使っていただく必要があります」とNRIの大石将士も語ります。

 

実証実験で用いたTRAINA/トレイナの画面および運用イメージ

 

グループ全体の生産性向上への布石

 

実証実験の結果を受けて、サッポログループマネジメントが先陣を切ってこの仕組みを本格導入することになりました。河本さんによると、「現状は想定より多い、約600件のFAQデータが溜まっています。当初の回答の精度は60~70%でしたが、研修で適切なFAQの作り方を教え、TRAINAの読解能力をチューニングしたことで、80~90%に上がってきました」

 

河本さんの視点の先にあるのは、グループ間接業務の効率化だけではありません。ビールや飲料など各事業会社にも展開してこそ、意味があると言います。

 

「サッポログループでは、長期経営ビジョン「SPEED150」で、2026年に世界に広がる「酒」「食」「飲」で個性かがやくブランドカンパニーを目指すという目標を掲げています。今回の実証実験を活用すれば、お客様への提案の幅が広がり、事業間でもシナジーが生まれるはずです。もともと営業担当者に役立つ仕組みにしたかったので、これからが本番です」

 

「曖昧な言葉で問い合わせても、内容を理解して回答の候補を出したり、質問を投げ返して絞り込めたりできる日本語解析技術がTRAINAの強みですから、経理や人事だけでなく、営業など多様な業務に展開可能です。今回の活動を通じて一緒に作り上げてきたノウハウやスキームは、業界や企業を問わず、業務改善活動に適用できます。生産性を高める活動がもっと広がれば、世の中を変えるスケールの大きな話になると思います」と、大石は言います。

 

業務改革を提案し、トップや周囲を巻き込みながら、やりきることは難しいものです。今回の取り組みには、個人の想いを吸い上げる仕組み、志ある人材を応援する風土、外部リソースの有効活用や適切な役割分担など、同様の課題に挑むときの参考になりそうです。

「生産性向上や働き方改革は日本全体における深刻な問題です。他の企業とも協力しながら知見を溜めるのが大切であり、私たちの活動も1つの参考になればと思っています」と、河本さんは語ります。

 

AIシステム「TRAINA」を現場に浸透させるために

 

TRAINAを現場に浸透させるためには、ただ問い合わせに対応できるだけでは駄目だと河本さんは話します。「挨拶や雑談に対応できるようになればと考えています。利用者一人ひとりのバーチャル秘書として、TRAINAに親近感を持ってもらうことは重要です」

それに対し、大石は言います。「まさに今その機能を実装中です。たとえば『かわいいね』と言うと『お世辞が上手ですね』、『疲れた』と言うと『一杯飲みに行きましょう』、といった人間味のある返答もしてくれるようになります」

利用者にTRAINAの活用を促進する工夫を施し、サッポログループの働き方改革を加速させていきます。

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