「デジタルレイバー」との向き合い方――RPAを戦力化するための要諦とは?
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2018年01月22日

「デジタルレイバー」との向き合い方――RPAを戦力化するための要諦とは? コーポレートイノベーションコンサルティング部 プリンシパル 福原英晃

RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)にとって2017年はその認知と導入が急速に広がった年でした。人間に代わる業務の担い手となることから、RPAは「デジタルレイバー(仮想労働者)」とも呼ばれます。現場の新戦力とするためにRPAとどうつきあえばよいのか。テクノロジー導入をはじめ多くの企業の業務改革を支援してきた野村総合研究所(NRI)の福原英晃に、RPAの特性や導入に向けた留意点を聞きました。

業種を問わず、RPAの導入が進んでいる

「RPAは従来のITシステムとどう違うのか?」という質問をよく受けます。従来のITシステムは、いわばパソコン画面の“奥側”にある仕組みで、人間はそれを“手前側”からマウスやキーボードを使いながら操作していました。RPAはその“手前側”の人間の操作を代行するプログラムです。具体例としては、業務システムにログインして、特定の情報を取り出したり、それを別のシステムに書き込んだりする作業を、実行ボタンを押せばロボットが自動でやってくれる、というようなイメージです。

この利便性に注目し、RPAをいち早く導入したのが、金融業やサービス業です。銀行口座の開設、保険金の請求、レンタカーの予約管理など、お客様向けの定型的な事務作業をロボット化することで、何百人分もの仕事が自動化され、大きな経済的効果を上げています。その後、業界問わず共通的な総務や人事、経理などの管理間接業務への適用も進み、今では多くの会社がRPAを導入しています。

“デジタルレイバー”の本質とは

「デジタルレイバー」という言葉には、従来のITシステムよりも人間に近い機能・役割を担ってくれる、あるいは、長時間労働や労働力不足の軽減につながる新たな労働力になるという、RPAに対する期待が表されています。しかし、実際にRPAを現場に導入する段階においては、もう少し違う側面からデジタルレイバーを捉えることが大切です。それは新たなレイバー(労働力)を受け入れる人間側の役割や能力にこそRPA導入成否が懸かっているという捉え方です。

では、RPAとはどのような労働力なのか?それは即戦力となるスター人材というよりも、優れた潜在力を秘めた「新入社員」として捉えたほうがいいと、私は考えています。様々な成功事例が世を賑わしてはいますが、現実的には「向き不向きの業務がある」「教えないと仕事ができない」「ケアしないと働かなくなる」などの特性や制約があることを理解しないといけません。

これら3つは、新人社員を迎え入れるときに、管理者はもちろん職場全体が考えるべきことと似ています。新人がやりたいこと・できることを正しく理解し、最初のうちは手取り足取り仕事を教えないといけません。うまく動けず、パフォーマンスが上がらない場合は、その問題の切り分けから対策実施まで寄り添うことも大切です。採用後の対応を間違えれば、新人は実力を発揮できず、組織の成果に貢献できません。
RPAにおいても同様であり、成果を出すためには導入後の人間の管理能力の巧拙が試されるのです。向き合う意識や体制もないままに導入すれば、デジタルレイバーなど現場では手のかかる厄介者にしかならず、すぐに使われなくなるでしょう。

“期待外れ”の原因は現場自身にある

実際にRPAを導入した企業の中には、思っていたよりも「用途が狭い」「効果が小さい」「手間が掛かる」という期待外れが起こっているのも事実です。その原因は、先ほど触れたような、導入現場のデジタルレイバーと向き合うための理解・準備不足にあることがほとんどです。
RPAの適応範囲を理解せず、AI(人工知能)との連携がなければ実現不可能な仕事までできると過度な期待をすれば、思ったよりも「用途が狭い」と感じるはずです。

また、RPA化の対象となる業務は小粒で個別性が強いことが多いため、効果を増やすためにはそれ相応の数のロボットが必要です。IT部門に依存し、現場でロボット制作(教育)する能力がなければ、スピード感をもってロボット業務が増えていかないため、思ったより「効果が小さい」ツールだと感じるでしょう。
そして、RPAは思いのほかデリケートです。制作時に設定した環境が変わると、途端に動かなくなります。環境変化の典型的な例で言えば、社内システムの画面遷移が変わった、作業ファイルを格納するフォルダの構造が変わった、月末にシステムのレスポンスが遅くなった、などです。それらを、予防・対処する方法がわからなければ、その度に現場は著しく動揺します。RPAに任せていた業務の復旧のため、急きょ人を集め、手作業で処理するなど、多くの時間と手間が発生します。その結果、とんでもなく「手間が掛かる」存在であると嫌悪感をもって捉えられることになります。

RPAはデジタル時代の“試金石”

このような期待外れが現場に記憶されるのは、今後の業務デジタル化の進展を考えると大きなマイナスです。RPAは現段階において出来ることは限定的ですが、今後はIoT(モノのインターネット)やAI等と連結されることで役割が高度化されるでしょう。従来型のITシステムに代わり、多様化が増すホワイトカラー現場のデジタル改革のプラットフォームとなり得るものです。そのため、現場自身がデジタル・テクノロジーの導入と運用に必要なリテラシーを身につけられるかどうかが今後の鍵であり、RPAはその“試金石”になると言っても良いでしょう。デジタルレイバーを受け入れる人間側の役割・能力を重要視すべき本質的な理由はそこにあります。

楽器を演奏できない人に名器を与えても美しい音色は奏でられません。どんなにすばらしい道具があっても、そこから価値を引き出すのは扱う人間の技術です。それはデジタル・テクノロジーの領域であってもなんら変わることはありません。革新的なデジタルツールが出て来る時代だからこそ、NRIは人や組織の側に大きな課題と可能性があると考え、しっかり支援をしていきたいと思っています。

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