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クラウド時代の保険システムの姿

執行役員保険ソリューション事業本部副本部長 松本 晃

#経営

2018/05/07

これまで国内の保険会社においては、多くの基幹系システムがメインフレームで構築されており、その堅牢性や安定性によって保険会社のビジネスを長らく支えてきた。長い歴史を経てIT資産は積み上がり、レガシーシステムと化したため、その維持管理に必要な人員リソースやコストの面で課題意識を持っている保険会社は多い。

保険会社が直面するIT資産のクラウド化の波

課題解決の一つの手段として、脱メインフレーム、すなわちオープン系基盤やクラウド基盤へIT資産をスリム化した上、新しいシステムに乗せ換えるべきという意見がある。しかしながら、IT資産をスリム化しようとしても、肥大化・複雑化した基幹系システムの大規模な再構築は容易にはできないという課題も同時に抱えている。

ところで、メインフレームは将来にわたって保険会社のビジネスを支え続けてくれるのだろうか。一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の調査によると、2000年度以降のメインフレームの出荷実績は台数ベース・金額ベース共に一貫して下落しており、金額ベースでは2000年度の10分の 1以下となっている。もちろんメインフレームが直ちになくなることはないだろう。
とはいえ、メインフレーム市場が縮小している中、製造メーカーの淘汰が進み寡占化の方向に進むことは間違いないだろう。寡占化が進むと、一般的には費用の高止まりやサービスレベルの低下につながる可能性がある。一方で、クラウド市場は急激に進展しており、銀行や証券など他の金融業界ではクラウド基盤の本格利用が始まっている。

脱メインフレームには10年近い期間が必要

このような状況の中、国内保険会社にはどういった選択肢があるのだろうか。ここで、保険大国・IT大国としての米国に目を移してみたい。
野村総合研究所(NRI)では、2017年 8月、米国保険会社大手数社に対し、「クラウドが進展する中、脱メインフレーム・レガシーシステムをどう考えるか?」をテーマとして直接ヒアリングを行った。各社ともメインフレームを抱えており、国内保険会社にとって大いに参考になろう。個社事情の温度差はあるが、クラウド積極活用の方向で各社一致しており、またコストや移行リスクの観点から、脱メインフレームには10年近い期間が必要であるという点においても認識が一致していた。
また、米国保険会社をクラウドに向かわせる動機については、コスト削減だけでなくメインフレーム人材の枯渇を最も懸念していたということもあった。

NRIが研究するクラウド時代の保険システム

NRIでは、クラウド時代の保険システムの姿についてIT戦略と移行方式の 2つの観点から検討を行った。
IT戦略としてはメインフレームの行く末に鑑み、基幹系システムについては、今すぐにでも今後10年間の活動計画を立てて、プロジェクトを実行していくことが必要と考える。最初の1年は10年後の目的設定、すなわち事業戦略を踏まえたIT基盤、開発体制およびIT人材戦略など、「自社システムのあるべき姿の設定」を行う。次の 1年で現在の自社のIT資産を棚卸しして、各システムの現状把握と移行方法や優先度付けの検討を行う。その後の期間を使って実際のシステム構築や移行を行っていくことになるが、プロジェクト全体では10年近い長期にわたることが想定されるため、経営陣の強いリーダーシップの下に推進されることが望まれる。

移行方式として「Lift-and-Shift」と「Wrap-and-Renew」という 2つの手法を紹介する。1つ目のLift-and-Shiftは、米国のクラウドベンダー中心に提唱されている手法である。既存システムのシステム構成やアプリケーションにおける最小限の変更をクラウド基盤へ載せ(Lift)、徐々にシステム構成要素やアプリケーションをクラウドサービスに置き換えていく(Shift)手法である。この手法には、ノンコアIT領域、すなわち現状において優先的にクラウド活用が可能なシステムが適しているだろう。
2つ目のWrap-and-Renewは、リスク低減の観点から新旧システムを一定期間、並存させる(Wrap)手法である。新システムの導入後も旧システムは塩漬けにしてデータの消滅を図り、一定規模まで減少したところで新システムへ移行(Renew)する手法である。この手法には、契約管理などのコアIT領域、すなわち現状において再構築や一括移行が難しい、高リスクなシステムが適しているだろう。

NRIでは、クラウド時代における保険システムの姿として、脱メインフレーム、目的に応じたクラウドベンダーの使い分け方およびその実現に向けた移行方式について研究を重ねている。こういった研究の成果が国内保険市場の発展に寄与できることを願っている。

(知的資産創造3月号 MESSAGE)

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