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NRI トップ NRI JOURNAL スポーツ選手の活躍で、幸福度はアップ? ~企業スポーツ調査からわかる国民の意識変化~

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スポーツ選手の活躍で、幸福度はアップ? ~企業スポーツ調査からわかる国民の意識変化~

コンサルティング事業本部 パートナー 三崎 冨査雄、社会システムコンサルティング部 西崎 遼

#経営

2018/05/09

平昌オリンピックやFIFAワールドカップなど、2018年はスポーツのビッグイベントが目白押しです。スポーツ振興や選手強化には、民間企業も大きな役割を果たしています。野村総合研究所(NRI)では、これまで2000年と2008年に企業スポーツや国民意識について調査しましたが、過去の調査から約10年を経た今、スポーツに対して国民の意識にどのような変化があるのでしょうか。2017年11月に実施した最新版の結果を踏まえ、同調査を担当したコンサルティング事業本部の三崎冨査雄と西崎遼に聞きました。

選手の雇用を保証し、スポーツに打ち込める環境を提供

――企業は様々な形でスポーツ競技や選手を支援していますが、「企業スポーツ」の特徴を教えてください。

三崎:「企業スポーツ」は、選手を正社員として雇用し、勤務の傍らスポーツに取り組んでもらい、引退後も雇用を続けるのが特徴です。サントリーのラグビー部、新日鐵住金の柔道部、JTのバレーボール部などがその例です。他に、スポーツ選手を育成・支援する方法として、ビジネスとして興行収入を得る「プロスポーツ」、勤務時間外に社員有志がスポーツを楽しむ「企業内同好会」、選手やチームに資金提供する「スポンサー」などがあります。

――なぜ企業はチームや個人選手をそのような形で支援するのでしょうか。

三崎:企業スポーツの成り立ちは、もともと福利厚生のためでした。従業員を家族のように捉える日本独特の風潮で、1920年頃、女子工員を大量雇用していた繊維工場で、労働環境が問題視されたため、健康増進とレクリエーションのためにバレーボールが取り入れられたことが始まりと言われています。その後、みんなで応援して連帯感や一体感を醸成することや、広告宣伝やイメージ向上、社会・地域貢献などを目的にするようになりました。

国民の興味・関心は多様化している

――今回の調査から、どのような状況が見えてきましたか。

西崎:まず、国民のスポーツ全般への興味が薄れてきていることです。「スポーツに興味がない」と答えた人が2008年の調査から比べて約10%増え、2017年では31.9%になりました。しかし、この結果は予想通りでした。エンターテイメントの多様化や若者のスポーツ離れ、それに伴うプロスポーツのテレビ中継の視聴率低迷など、スポーツを取り巻く社会の現状が数字として出てきたなと感じました。なお、アンケート調査は、平昌オリンピック・パラリンピックの影響を避けるため、開会前の2017年11月に実施しました。それゆえ、上記の結果は普段の感覚に近いものになっていると考えています。

三崎:企業スポーツへの関心も同様に減っています。1990年代の不況時に企業スポーツから撤退する動きが加速し、その後も企業チームはそれほど増えていません。

西崎:こうしたトレンドを踏まえて、企業に代わって誰が支援すべきかと質問したところ、10年前は「地域や住民が支援すべきだ」という回答が39.6%と最も多かったのに対し、今回は「国が支援すべきだ」という声が最も多く、前回から10%以上増えて36.4%という結果でした。ここは、国民の意識が大きく変わったところです。

スポーツと国民の幸福度の関係

――その背景として、どんなことが考えられますか。

三崎:スポーツ庁が発足したり、成長戦略の一環として2025年にスポーツ産業の市場規模を15兆円(2012年時点の約3倍)にするという目標を掲げたり*1と、国民の目にも、国が主導してスポーツ振興に力を入れていると映っているのだと思います。

西崎:「企業スポーツに何を期待するか」という質問に対して、「世界で戦えるアスリートの育成」という答えが一番多く、41.1%にのぼりました。特定の地域や一企業が支えるよりも、国が主導したほうが環境整備、コーチや指導者、人材育成などの面でレベルアップにつながると期待していることも一因だと思います。

――日本人がスポーツで国際的に活躍するのと、科学技術や企業の国際競争力、ノーベル賞受賞などと比べてどちらが嬉しいか、という比較調査もしていますね。

西崎: 2008年にも同様の調査を行いましたが、それと比較すると、今回はスポーツでの活躍が10項目中3番目に上昇しました。この結果から、スポーツへの興味が薄れる中でも、スポーツが日本国民に与える幸福度は相対的に高いことがわかります。

多様な形でスポーツ支援は可能である

西崎:スポーツの価値を可視化するのは難しいのですが、今回の調査のように「国民の幸福度に寄与する」というのは、資金提供に対するリターンの示し方の1つと言えます。スポーツ振興において、このスポーツ競技は広告宣伝に役立つ、この競技は地域との一体感をつくる仕掛けを入れているなどとわかれば、企業側も投資しやすくなります。2020年の東京オリンピック開催が近づき、スポーツ振興の機運が高まっている今だからこそ、スポーツ界ごとに資金提供する企業に対するメリットや注力する方向性を明確に打ち出していくことが重要だと思います。

三崎:企業にとって芸術文化など支援対象がいろいろある中で、比較調査で下位になった項目よりは、スポーツ支援のほうが有効だという考え方もできます。現在、さまざまなスポンサードが可能で、チームを丸抱えせずに一部費用を負担する、クラウドファンディングを用いるなど、支援の形も多様化しています。国だけに頼るのではなく、新たに支援しようという企業に情報提供し、投資を呼び込む活動がもっと増えていくといいですね。

  • 1 2016年6月スポーツ庁経済産業省「スポーツ未来開拓会議中間報告~スポーツ産業ビジョンの策定に向けて~」より
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株式会社野村総合研究所
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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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