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木内登英の経済の潮流――投資対象としての仮想通貨の潜在力

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

#木内 登英

#時事解説

2018/05/15

昨年末から年初にかけての仮想通貨の価格急落を受けて、投資対象としての仮想通貨の位置づけを再確認しようとする動きが機関投資家の間に広がっています。

仮想通貨の時価総額はまだ小さい

昨年末、仮想通貨の価格は俄かに大幅な調整局面へと陥りました。しかしそれが起きたのは、価格が既に驚異的な上昇を見せた後のことです。代表的な仮想通貨ビットコイン(Bitcoin)の価格は、昨年末にピークをつけるまでの1年間で、60倍程度も上昇しています。これは、よく知られている歴史的なバブルの事例をも上回る上昇ペースでした。18世紀フランスのミシシッピ・バブルでは、ピークに達するまでの1年間の株価上昇率は30倍台、18世紀の英国で起こった南海泡沫事件(South Sea Bubble)では、10倍にも達しませんでした。このことから、昨年の仮想通貨の価格高騰が、いかに異例なものであったかがうかがわれます。

しかし価格急騰にも関わらず、仮想通貨の時価総額は、他の金融資産規模と比べるとまだかなり小さい状況です。例えば主要4中央銀行(日本、米国、ユーロ、英国)の資産規模に対して、今年3月時点で3%未満です。こうした数字は、仮想通貨が法定通貨の存在を脅かす状況には全く至っていないことも物語っています。

ボラティリティと期待収益とのバランス

他方で、株式、債券、為替など伝統的な金融資産、あるいは原油、金などの商品と比べた場合、投資対象としての仮想通貨を大きく特徴づけるのは、そのボラティリティ(価格変動率) ※1 の高さです。それは、決済手段としての仮想通貨の利用を大きく妨げていますが、過度なボラティリティの高さは、多くの機関投資家が仮想通貨を伝統的な投資対象群(アセットクラス)に加えることも躊躇させてきたことでしょう。

しかし現状のように、あらゆる金融商品のボラティリティが過度に低く、価格上昇による利益獲得の投資機会が限られるなかでは、機関投資家はボラティリティの高い商品に次第に目を向けやすくなることも事実です。さらに、実際の投資判断は、ボラティリティで測られる期待リスクと期待収益(リターン)とのバランスでなされるのが普通です。

そこで、投資のリスクに対するリターンの大きさ、つまりリスク調整後の期待リターンを示すシャープ・レシオを、仮想通貨とその他幾つかの資産とで比較してみましょう。仮想通貨のシャープ・レシオは過去1年間で1.5、2年間では2.5となりました。これは、価格上昇が著しい米国の代表的なIT企業4社(FANG ※2 )の株価の平均値と、ほぼ同水準です。他方で、米国不動産、米国株価、米国債券、金、原油、新興国通貨と比べるとかなり高くなっています。このことは、仮想通貨が投資対象としての魅力を兼ね備えていることを意味しているでしょう。

他の金融商品との相関性は低い

また、機関投資家が分散投資の観点に基づいて、仮想通貨を投資対象とするかどうかを判断する際には、仮想通貨と他の投資対象との価格の相関関係が非常に重要となります。両者が強い正の相関を示す場合には、仮想通貨は価格変動リスク全体を減少させる分散投資の観点からは、投資対象となりにくいのです。他方、負の相関あるいは相関が小さい場合には、分散投資の対象に仮想通貨を組み入れることが検討されやすくなります。

そこで、ビットコインと米国株価、米国長期国債、ユーロ、人民元、金との間の価格の相関を計算してみると、いずれもかなり小さい相関であることが確認できます(図表)。最近の仮想通貨の価格下落局面でも、この相関関係は大きく変化していません。シャープ・レシオとこの相関関係の2つの指標に照らすと、仮想通貨は投資対象として広がっていく潜在力を備えていると言えるように思います。

ビットコインとその他資産、その他仮想通貨との相関係数

将来の相関関係の変化に留意

しかし留意しなくてはならないのは、相関関係が低いのは、仮想通貨が投資家、特に機関投資家にとっては十分な投資対象とは未だなっておらず、仮想通貨とその他の資産との間で取引が少なく、価格の裁定が働いていないことの表れでもあります。仮に投資家が先行き、分散投資の一環として仮想通貨への投資を拡大させていく場合には、それが価格の正の相関性を高めて、仮想通貨投資の魅力を低下させてしまうという皮肉な結果を招く可能性もあるでしょう。

また、仮想通貨とその他の金融資産との間の相関関係を正確に測るには、仮想通貨の歴史は未だ短く、なお十分な情報を得られていない面もあります。この点は、先ほど述べたシャープ・レシオについても同様です。
価格急騰のもとで注目度が一気に高まった仮想通貨ですが、昨年末からの価格急落を経て、プロの機関投資家は、投資対象としての仮想通貨の潜在力を慎重に値踏みする段階に入ってきています。

  • 1 価格変動の度合いを示す言葉。一般的に、ボラティリティが大きいとは価格の変動性が大きいことを指す。標準偏差で示すことが多い。
  • 2 「Facebook」(フェイスブック)、「Amazon」(アマゾン・ドット・コム)、「Netflix」(ネットフリックス)、「Google」(グーグル)の4社の頭文字をつないだ造語。

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