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コロナショックで東京一極集中は変わるか

2020/07/09

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5月には東京から人口が流出

2020年5月の東京都の人口転入・転出の動向をみると(住民基本台帳人口移動報告)、転入、転出ともに前年同月比で大幅な減少となった。その結果、転出者が転入者を1,069人上回り、ネットで転出超過となっている(図表1)。これは、外国人を含む移動者数の集計を始めた2013年7月以来初めて、日本人に限っても東日本大震災の影響があった2011年7月以来初めてのことである(注)。

新型コロナウイルス問題で、新規感染者の数が多く、また緊急事態宣言の解除の時期も他道府県と比べて遅れた結果、東京への転入が大きく減少したことがその背景にある。東京の大学に新たに入学した大学生が、東京都への移転を見合わせた影響なども大きいとみられる。

緊急事態宣言の解除などを受けて、6月以降は、東京都への転入超過傾向が戻ってくる可能性は考えられる。しかし、感染への強い警戒などは今後も続く可能性が高いことから、新型コロナウイルス問題が東京への人口流入に歯止めをかけ、東京一極集中傾向を徐々に変えていくきっかけとなる可能性もあるのではないか。

ちなみに東京一極集中の是正は、新型コロナ問題で顕在化した課題への対応の5つの実行計画のうちの1つとして、行政のデジタル化やテレワークの推進等とともに、政府の骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)に盛り込まれる予定だ。

(図表1)他の都道府県から東京都への転出・転入

東京一極集中が地方を疲弊させていないか

2016年時点で東京都の人口は1,362万人、日本全体の10.7%と約1割を占めている。多方、名目GDPに占める東京都の比率は19.0%と、約2割である。つまり、東京都で1人当たりが生み出す付加価値は、国全体の平均のおよそ2倍である。東京は非常に経済効率が高い地域であると言える。

それは、労働生産性の高い業種が東京に集中している、という産業構造の特徴によるところも大きい。また、大手企業の本社本店が東京に集中していることで、企業のビジネス活動の効率性が高められている面もあるだろう。東京に様々な資源が集中することで、日本経済全体の生産性上昇やイノベーションの促進に貢献してきたという面があることは確かだ。

ただし、集中が行き過ぎたことで、既にそうした効果も削がれているかもしれない。集積が固定化すると、イノベーションを生み出す力も落ちてしまうのではないか。

他方で、東京が企業や人を吸収することで地方経済が疲弊してしまう、という弊害があることは確かだ。東京への人口移動は、地方での人口減少を加速させている。

またその結果、地方での生産資源、土地、カネ、人材などが十分に活用されずに、その分、日本全体の経済効率を押し下げてしまっている面もあるのではないだろうか。

リモート環境で多くのビジネス活動が進められるようになれば、企業や人が物理的に近距離にいる必要性は薄れるはずだ。これは、経済効率を高めるという東京一極集中のメリットを低下させることになるだろう。

90年代後半以降、一貫して東京への人口流入が続いた

東京への人口集中が現在のように進んだのは、それほど昔のことではない。1890年頃には東京府の人口は150万人程度で、人口数は全国の府県のなかで9番目だったという。

東京への人口流入が加速したのは、第2次世界大戦後の高度成長期であった。高度成長の終焉、オイルショックの発生とともに、東京からの人口の純流出が一時生じたものの、90年代後半以降は純流入傾向が続いている。その動きは景気動向に左右されており、景気後退時には、東京への人口流入が弱まる傾向が見られる(図表2)。

近年の東京圏への人口流入の特徴を年齢別に見ると、純流入(転入超過数)の大半を、10代後半、20代の若者が占めている。これは、東京の大学への進学や就職が大きなきっかけであることを示している。また30歳代以降では、仕事や家族(介護など)に関連した流入が多い。

男女別にみると、過去10年程度は女性の純流入(転入超過数)が多いことが分かる。他方で女性の転出者数は少ないことから、女性は一度東京に転入すると地元に戻らない傾向があるとも言える。

(図表2)東京都への人口流入の歴史

東京一極集中の弊害は多い

東京一極集中の弊害としてしばしば指摘されてきたのは、生活環境の悪さである。交通渋滞、保育所不足、介護施設不足、通勤時の電車の混雑、家賃の高さ、物価水準の高さ等、数多く挙げられる。東京の保育所不足は、日本全体の少子化の原因の一つともされている。

しかし、これらは、東京への急速な人口流入が招いた当然の結果でもある。市場原理が働くのであれば、家賃の高さ、物価水準の高さなどは、東京への人口流入を食い止める要因となるはずだが、実際はそうなっていない。東京にある大手企業に勤めること、賃金の高さなど、その他の経済的メリットが多くあるためだ。

さらに、東京一極集中の弊害としてやはり多く指摘されるのが、首都直下型地震などの自然災害によって、首都中枢機能が一気に損なわれてしまうリスクである。

そうしたリスクを軽減する観点から、首都機能の地方移転が長らく試みられてきたが、今のところは大きな進展はないように見える。中央省庁の地方移転は地方創生の目玉でもあったはずだが、全面移転は文化庁のみにとどまっている。

コロナショックは東京一極集中是正のきっかけになるか

一定程度の時間を要することになるだろが、新型コロナウイルス問題やその他の感染症への警戒は、東京一極集中が是正されるきっかけになり得るのではないか。

東京都の面積は2,194平方キロメートル(国土交通省国土地理院)で、日本全土の0.58%に過ぎない。ここに、日本の全人口の10.7%がいることから、人口密度は極めて高い。そのため、新型コロナウイルスの感染リスクは他の地域に比べて大きくなる。7月7日時点で、東京都での新規感染者数は日本全体の35.5%と、人口の比率の3.3倍に達している。人口規模の効果が働いているのである。

このことが、この先も、東京都からの転出を促し、東京都への転入を妨げる要因となるだろう。

他方、企業によって対応に差があるとはいえ、コロナショックによって一気に広まったリモートワーク環境は、今後、一定程度定着していくだろう。東京に本社を置く大手企業は、東京都以外に、BCP(事業継続計画)の新たな拠点やサテライトオフィスを設ける動きを強めるだろう。

また、リモートワークを望む従業員は、通勤のために生活コストの高い東京都に住み続ける必要性がなくなり、生活環境がより良い郊外、地方へ移住するようになるだろう。リモートワークでは、リモート会議を行うために自宅で一定程度のスペースが必要となり、それを確保するためにも、同じ家賃でより広い住居が確保できる、地方への移住が進められるだろう。

地方の資源の活用に期待

こうして人口が東京、あるいは大都市部から地方へと移っていけば、それに応じて、地方でのビジネス機会も増加し、大都市部の企業も、その活動を地方へと広げていくだろう。また、元々地方に根差した企業の経営環境を改善させるだろう。

さらに、今まで十分に活用されていなかった、道路、公共施設などの公共インフラ、土地、人材などの有効利用が進められ、それは地方での経済効率の向上をもたらすだろう。地域資源の有効活用である。

また文化活動も地方に分散化され、地方で新たな文化が開花していくかもしれない。地方分権も後押しされるのではないか。

経済、国民生活、災害対策、政治機能、文化など様々な側面から日本で長年の課題となっていた東京一極集中の是正が、コロナ禍をきっかけにして図らずも進む可能性が出てきたのではないか。

さらに、単に人々が東京を逃れて地方に行くだけではなく、新しい環境で仕事や生活を始めることによる意識の高揚、モラルの高まりなどが、地方創生の流れを強く後押ししていくことも期待したい。

(注)https://www.stat.go.jp/info/today/157.html

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