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ロビンフッダーの次の標的はビットコインか

2021/02/18

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18日に公聴会が開かれる

米ゲームソフト小売りのゲームストップなどの株価が、レディットと呼ばれるSNSの投稿を通じて一時急騰した問題で、米下院金融サービス委員会は18日(米国時間)に公聴会を開く。足もとで株式市場はやや落ち着きを取り戻した感もあるが、公聴会の開催によってこの問題への注目が再び高まりそうだ。公聴会では、株式取引アプリを手掛けるロビンフッド、注文を執行するシタデル・セキュリティーズ、ヘッジファンドのメルビン・キャピタル各社のCEO(最高経営責任者)がそれぞれ証言する予定だ。

問題の発端となった、個人投資家が結託して株価操縦的な行為を行ったことへの対応よりも、ヘッジファンドやHFT(高速取引・高頻度取引)業者などの機関投資家、ロビンフッドなどの証券会社のそれぞれのビジネスモデルの問題点に改めて焦点をあてた議論となるのではないか。

ヘッジファンドあるいはHFT業者については、個人投資家に対して有利な環境のもとで巨額の利益を上げているのではないか、また証券会社については、顧客からの注文を機関投資家であるHFT業者などのマーケットメーカー(値付け業者)に回し、それと交換にリベート(報酬)を受取るPFOF(ペイメント・フォー・オーダー・フロー:payment for order flow)という仕組みは公正なのか(コラム「米オンライン証券のビジネスモデルPFOFが改めて注目を集める」、2021年2月9日)、そのもとで、注文情報を渡す個人投資家の取引が不利になっていないのか、など、以前から議論されてきた問題が改めて蒸し返されるだろう。

「ダークプール」も論点に

さらに、このPFOFと共に証券会社の慣行の中で長らく問題視されてきた「ダークプール」の問題も、議論の対象になりそうだ。ダークプールとは、証券取引所を通さず、投資家の売買注文を証券会社の社内でつけあわせて約定させる取引のことを言う。

手数料が証券取引所に比べて安いうえ、注文情報が外部から見られないため、価格を大きく変動させることなく大量の売買注文の取引が可能になる、などのメリットがある。その一方で、情報開示義務がないため、取引の参加者や注文動向、気配情報が外部からはわからず、顧客が本当に最良価格で約定しているのか確認できない、などの透明性の問題も指摘されてきた。

ローゼンブラット証券によると、米国では証券取引所を通さない株取引の割合が1月に47.2%と、前年同月の39.9%から上昇し過去最高に達した(注1)。

今回の問題をきっかけとして、このような証券市場で長年意識されてきた課題、構造問題に、当局がどの程度取り組むことになるのか、公聴会からある程度推し量ることができるのではないか。

ロビンフッダーとビットコインに共通する点

他方、ゲームストップなどの株価を押し上げた、ロビンフッダーに代表される個人投資家の動きに関連して、足もとでのビットコインの価格急騰にも注目が集まっている。公聴会で話題に上る可能性もあるかもしれない。

16日にビットコインの価格は初めて5万ドルを突破した。ここ1年間で価格は5倍以上に上昇している。テスラ社が15億ドルのビットコイン投資を実施したことが、足もとでの価格上昇の原動力となっている(コラム「テスラのビットコイン保有で市場の投機色は強まるか」、2021年2月10日)。それに加えて、個人投資家が株式からビットコインなどの仮想通貨(暗号資産)に投資対象を移していることが、ビットコインの価格急騰の一因である可能性がある。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、ロビンフッドがゲームストップなどの銘柄の顧客の取引を一時停止した際に、ロビンフッダーら個人投資家は、取引の自由を制限されたことに強く反発し、仮想通貨取引所大手のコインベースに、新たな投資を求める動きが殺到したという(注2)。

実際、仮想通貨の個人投資家とロビンフッダーとはかなり重なっているだろう。分析会社Cardify.aiが行った消費者の支出行動に関する調査によると、コインベースなどで仮想通貨を取引する投資家の約46%は、ロビンフッドの証券口座にも資金を入れている。

ロビンフッダーは、ヘッジファンドなど機関投資家の権威に反発して、株式市場の民主化運動を自認してきた。ビットコインも、通貨を中央銀行の管理から解き放つ、とのコンセプトで生み出されたものだ。共に権威への抵抗という点で共通している。ロビンフッダーの本格参戦で、ビットコインの価格はさらに押し上げられる可能性が出てきたのではないか。

ビットコインの価格の動きをみる限り、ゲームストップなどの株価を押し上げたロビンフッダーなど個人投資家の影響力は、なお健在であるように感じられる。それは、今後も個人投資家による株価操縦的な行動がさらに広がる可能性があることを意味しよう。公聴会は、機関投資家と証券会社の議論に終始するのではなく、こうした個人投資家の投資行動への対応についても、しっかりと議論をして欲しい。

(注1)"GameStop Mania Highlights Shift to Dark Trading", Wall Street Journal, February 15, 2021
(注2)"GameStop Frenzy Echoes Sharp Moves Long Seen in Cryptocurrency Markets", Wall Street Journal, February 11, 2021

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