NEWS RELEASE

「ITロードマップ2018年版」をとりまとめ

~ AI進化の切り札として注目を集める「量子コンピュータ」 ~

2018年03月08日
株式会社野村総合研究所

株式会社野村総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:此本 臣吾、以下「NRI」)は、これからのビジネスや社会に広く普及し、さまざまな影響を及ぼすと考えられる情報通信関連の重要技術が2018年以降、どのように進展し実用化されるかを予測した「ITロードマップ」※1をとりまとめました。

今回取り上げたのは、「人工知能(AI)」、「AIアシスタントデバイス」※2、「エンタープライズ・チャットプラットフォーム」※3、「VR(Virtual Reality:仮想現実)・AR(Augmented Reality:拡張現実)」、「量子コンピュータ」、「金融×AI(金融分野におけるAI活用)」、「ロボ・アドバイザー2.0.」、「マーケティング×AI(マーケティング分野におけるAI活用)」の8つです。また、年々重要度が高まっているセキュリティ技術の中から、「IDと認証セキュリティ」、「APIセキュリティ」、「ブロックチェーンにおけるセキュリティ」の3つを取り上げています。
これらの情報技術に関するロードマップは、東洋経済新報社より3月9日に発売される単行本『ITロードマップ2018年版~情報通信技術は5年後こう変わる!~』に掲載しています。以下では、中でもAIの進化の切り札と言える「量子コンピュータ」について、数年先までの動向をまとめます。

スーパーコンピュータでも解けない問題や、未知なる領域への適用に期待が高まる

量子コンピュータのアイデアは、ノーベル物理学賞を受賞した米国の理論物理学者、故リチャード・ファインマン博士によって1982年に提唱されたものです。その後、技術開発の難しさに加え、日本では景気の後退も重なり、企業の撤退が相次ぎましたが、現在、再び注目を集めています。その理由は、カナダのD-Wave Systems社が「量子アニーリング型コンピュータ」を2011年に商用化したこと、さらに2015年にはGoogleとNASA(アメリカ航空宇宙局)がこのコンピュータを使って、「1,000個の変数を持つ組み合わせ最適化問題を、従来のコンピュータと比べて最大1億倍の速さで解いた」という研究成果を発表したことです。
これ以降、国内外の研究機関やITベンダーが量子コンピュータの開発に再び注力し始めており、将来的には、新素材や新薬の発見につながる分子や化学相互作用の解明、量子物理学の法則を活用した暗号方式など、スーパーコンピュータでも解けない問題や、未知なる領域への適用が期待されています。

2017年度まで:量子アニーリング型コンピュータの登場と利用シーンの探索

2017年度は、海外に続き国内でも、D-Wave Systems社の量子コンピュータ(以下、D-Wave)を利用した「組み合わせ最適化問題」の実適用に向けた研究が始まりました。ほとんどの企業にとって、量子コンピュータは未知の技術です。企業はD-Waveを利用できるようになったものの、どのようなビジネス上の問題を解決できるのか、どのように問題を実装すればよいか判らないといった課題があります。そこで、量子アニーリングの研究を行う国内の大学などと共同し、利用シーンの探査に取り組むのがこの時期の特徴です。

量子コンピュータ関連のロードマップ

2018〜2022年度:黎明期。量子アニーリング型コンピュータを用いたAI研究の進展と量子超越性の実現

D-Waveに加え、内閣府の産学官連携プロジェクト「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」で開発されたレーザーネットワーク型コンピュータがクラウド環境で公開されるなど、アナログ方式の量子コンピュータの活用が活発化します。これにより、組み合わせ最適化問題やアプリケーションの研究が進み、車の自動運転のための画像認識や渋滞予測のための経路最適化、消費者向けの広告配信に必要な属性分類の最適化をはじめとした研究の成果が多数登場すると予想されます。
2020年以降には、IBM、Googleなどによる「量子ゲート型コンピュータ」のクラウドサービスが始まる見込みです。両社が提供する予定の50量子ビットの量子コンピュータは、理論上はペタフロップス※4級のスーパーコンピュータの演算能力を持ち、従来のコンピュータを凌駕する「量子超越性」※5を実現する可能性があります。

2024年度以降:発展期。汎用量子コンピュータの実現に向けた研究の進展

量子超越性が実現した先には、さまざまな問題に利用可能な「汎用量子コンピュータ」の登場が期待されます。しかし、超電導体を絶対零度(マイナス273度)に近い温度まで冷却し、量子の状態を安定させてコントロールする量子ゲート型の量子コンピュータは、外部からのノイズなどの影響を受けやすく、なかなか量子状態が安定しないという課題があります。
特に、コンピュータの大規模化を進めるにあたり、計算で利用する量子ビットを増やせば増やすほど、エラーの発生確率は高くなるため、汎用量子コンピュータの実現に必要となる高い計算能力とエラー耐性の両立が実現するまでには、研究開発にかなりの時間を要すると予想されます。
この課題に対し、マイクロソフトは量子の状態が安定しやすい「トポロジカル量子コンピュータ」の開発を進めており、今後、IBM、Googleに続く第三の勢力として研究開発を牽引していくと予想されます。

  • ※1ITロードマップ:
    特定のIT領域について、現在から5年程度先までの技術の進化や動向を予測したもの。
  • ※2AIアシスタントデバイス:
    AIを活用した音声対話型のデバイス。
  • ※3エンタープライズ・チャットプラットフォーム:
    eメールに代わる、チャットをインターフェースとした企業向けのサービス。
  • ※4ペタフロップス:
    「フロップス(FLOPS)」は、コンピュータの処理能力の単位で、1秒間に浮動小数点演算を何回できるかという能力を表す。1ペタフロップスは、毎秒10の15乗回の演算能力を意味し、たとえば、スーパーコンピュータ「京」は、10ペタフロップス(1京回)の処理能力を有している。
  • ※5量子超越性:
    量子コンピュータが従来型のコンピュータでは実現不可能な計算能力を備えていることを示す用語。2018年1月時点において、Googleは「量子超越性を示すために必要な量子ビットの数を49個」という見解を示している一方で、IBMは「49個では足りない(最大56個量子ビットの量子コンピュータの動作は、スーパーコンピュータでシミュレーション可能)」と主張するなどの議論がある。

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