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デジタルによって変わる医療の未来

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2021/04/30

デジタル治療という言葉を聞いたことはあるでしょうか?
薬によって病気を治すことと同じように、スマートフォンなどのアプリケーションソフトを通して、専門家から治療に関する助言や日々の生活習慣を変えるための助言などを受けることによって、一定の治療効果が得られるというものです。日本では、2020年6月にこの分野で初めて、薬事承認を得た治療用アプリケーションソフトが登場しました。それでは、AI(人工知能)診断という言葉を聞いたことはあるでしょうか?これまでに医師が病変、あるいは病変の疑いがあると診断した画像をデジタルデータとしてAIに読み込ませて学習させ、これによって得られたAIを医療の場面で活用するというものです。こちらについては、2021年2月に、国内初の薬事承認を得たAI画像診断ソフトが登場しました。このように、医療の現場にデジタル技術を導入する動きが活発化しています。

スマートフォンのアプリを用いて生活習慣病を改善し、医療費を節減する

海外のある自治体では、肥満や糖尿病、心臓病、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患などの生活習慣病をもつ市民を対象に、スマートフォンのアプリを用いたデジタル指導プログラムを行っています。プログラムに参加する市民は、病院に通うのではなく、アプリを用いた動画やテキストのメッセージによって、指導員のアドバイスを受けることができる仕組みです。またこのアプリでは、自分自身のバイタルデータを継続的に確認することができるので、アドバイスによって健康状態が改善されていることを実感することができます。

指導員は、1人あたり1年間に最大300人の参加者に対して、バイタルデータを活用しながらアドバイスを行っているそうです。その結果、例えば、糖尿病を患う参加者の47%が、糖尿病前期の閾値(いきち)以下の血糖値を保ち続け、参加者の80%が、12カ月後にヘモグロビンA1cを低減し、その状態を持続させることに成功しました。そして、糖尿病を患う市民1人あたり、年間2,300ドルの医療費を節減することができました。

データを分析すると、患者さんの満足度に大きな差異が見られる

これまで、治療に関することの多くが医師に委ねられてきました。しかし、近年では治療の種類や費用のバリエーションが増えているほか、必ずしも完治を目指すのではなく、疾患と向き合って生きるなどの選択肢が増えています。このように、医療に関する価値観が多様化する中で、医療との付き合い方を選択するにあたって、患者さんの意見が必要になってきます。

例えば、海外のある医療機関では、前立腺がんの主な治療方法である、放射線治療、ロボット切除術、陽子線治療の3種類について、医師をはじめとする医療従事者、ケアサービス事業者、そして患者さんから、治療に関するデータを集めて、分析しています。陽子線治療の費用は、放射線治療の費用よりも数倍高いのですが、患者さんの実感としては、治療後と治療前の生活の変化が陽子線治療の方が少ないという結果を得ました。そして、比較的年齢の高い患者さんは、治療にかかる費用の満足度を重視し、比較的年齢の低い患者さんは、治療の前後における生活の変化の度合いに対する満足度を重視した、という違いがあることがわかりました。

このように、デジタル技術を医療の分野に活用する動きは、日々、活発化しています。私たちの未来の医療が大きく変わろうとしています。

執筆者


松尾 未亜

松尾 未亜

ヘルスケア・サービスコンサルティング部
グループマネージャー


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