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リターンから経験へ――お金の価値観が変わろうとしている?!

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2021/12/01

近年、航空会社や家電量販店が一般消費者に対して金融サービスを提供していることをご存知でしょうか。これは、金融におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の事例の一つで、BaaS(Banking as a Service)と呼ばれるものです。預金口座管理、資金決済、ローン提供といった銀行機能のサービス化を指します。銀行が自らの顧客にサービスするのではなく、一般消費者を顧客とするパートナー企業に対して、銀行が銀行機能を黒子として提供するのです。パートナー企業としては、自らの本来のサービスに金融サービスを融合させて、より付加価値の高いサービスを顧客に提供することが可能となります。

預金をどこに置くかが重要に?

この動きは、BaaSを提供する銀行側から見れば単純にチャネル拡大戦略の一つに過ぎないかもしれませんが、金融サービスの形がどう進化するかという観点で見ると、そこには新たな可能性が垣間見えます。例えば、航空会社がBaaSを活用することにより、その顧客は航空会社で銀行口座を開設し、そこに預金したり、外貨交換などを実行したりすることでマイルを獲得することができます。即ち、顧客ロイヤルティプログラムと金融サービスの連携です。これ自体は金融サービスの進化というほどのことではないように映りますが、これまで一般個人にとって、預金をどこの銀行に置くかという判断が日常の生活や行動に影響を与えるようなことがなかったことを思えば、大きな変化なのです。今後、多種多様なパートナー企業へBaaS提供が拡大していくと、預金をどこに置くのかという判断が個人の日常に関わるケースが増え、より重要な意思決定になってくる可能性があります。金融サービスを、投資商品のリターンのように直接的な効用の良否で決めるのではなく、「何か新たな経験が提供される」などの非金銭的な効用を期待して選択する動きとして、新しいのです。

「リターンよりも経験を」という可能性

この「リターンよりも経験を」の動きは、まだ大きな流れになっているわけではありません。しかし、低金利環境が継続し、闇雲に預貯金にお金を放置しておくのはもったいないという気持ちが高まれば、この傾向は強化されるでしょう。そして、そのような期待感から「リターンよりも経験を」に繋がりそうな金融サービスを探してみると、いくつかその萌芽といえそうなものがあります。
例えば、健康的な生活習慣を実践すれば保険料が安くなる保険など、それを保有した個人に行動変容を促す金融商品。今でこそ、保険料低減が行動変容のインセンティブとして位置づけられているものの、今後、行動変容の仕掛けが豊富に提供されるようになれば、インセンティブが逆転するかもしれません。即ち、行動変容を目的として当該商品を契約し、保険料は多少高くてもOKとする世界に変わるということです。また、ESG投資商品も「リターンより経験を」のラインナップの一つとして期待したいところです。ESG投資商品は既にその投資理念が多くの人を惹きつけているものの、投資家に新たな経験を提供しているかという点では十分とはいえません。今後、投資家のESGコミュニティへの参加を助けたり、日々、関連トピックのメールが届いたりするなど、経験自体を豊かにするサービスが拡充されてくれば、投資パフォーマンス自体が多少低くても十分に魅力的な商品になるでしょう。
これまで金融サービスといえば金銭的な効用のみが注目され、低金利の環境下でアピールの難しい状況が続いてきました。「リターンよりも経験を」という視点は、金融サービスの魅力度に幅を持たせてくれる一つの可能性として期待できるのではないでしょうか。

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