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質的発展の時代に入った中国とのつきあい方

NRI上海/川嶋一郎

#グローバルオペレーション

2016/10/31

急激な経済成長が落ち着き、今後は質的な発展を目指す中国。創新企業(=イノベーション企業)が次々と勃興し、グローバルワイドに展開するような変革期において、日本企業は、これまでのスタンスのまま中国と向き合っていてよいのでしょうか。

 

中国経済はもうダメなのか

 

2010年に日本のGDPを抜き、世界第2位の経済大国となった中国。ところが、それまで10%を超えていた成長率は2011年に9%へ、2015年には6%に低下しました。これを受けて日本では「中国経済の終焉」「中国経済は崩壊」などというセンセーショナルな言葉が飛び交っていますが、本当のところはどうなのでしょうか。

 

中国とのビジネスに10年以上関わり、2014年からNRI上海の代表を務める川嶋一郎は「日本が高度成長の時代から成熟期に移ったように、中国は現在、量の拡大・成長を続けてきたステージから、質の向上を目指すステージに入った」と話します。

 

中国は質的発展の時代に

 

急速にGDPを伸ばす経済成長から、質を重視する発展へ。新しく迎えたこの状況を、中国では「新常態」と呼んでいます。川嶋は続けます。

 

「中国の経済規模はとても大きくなったため、従来と比べれば必然的に成長率は下がります。それによって景気が悪化した分野もあるけれど、中国経済が崩壊してしまうほどの状況ではない。力強く成長を続けている分野は、まだまだたくさんあります」

 

その典型が消費市場。沿岸部の大都市だけでなく内陸部も含めて国民が豊かになったことで「Eコマースを中心に消費市場は2ケタ成長を続けている」と川嶋は言います。

 

 

日本企業だけが中国離れ

 

この成長市場に、中国企業はもちろん、欧米、台湾、韓国などの海外企業がこぞって入り込み、シェアを伸ばすことに注力しています。ところが日本企業だけは、中国から離れているようです。その理由を川嶋は次のように見ています。

 

「理由の一つは、2012年9月に起きた尖閣諸島の問題です。それまでは日本企業も、中国に対する投資や事業進出を図り、地方都市にもきちんと対応していく姿勢をとっていた。ところが尖閣問題以降、日本の中国に対する見方が一気に変わり、日本では中国のネガティブな話題ばかりが取り上げられるようになりました。そしてもう一つの理由は、日本のGDPを超えるほど成長した中国に対する、嫉妬や脅威が少なからずあると思います」

 

中国発展の担い手となるイノベーション企業

 

「新常態」下にある中国は「創新」=イノベーションによる競争力強化を、新たな発展戦略に掲げています。中国は従来、経済成長の源泉を低廉で抱負な労働力においていましたが、今後はイノベーションによる「技術力・品質・ブランド力」の向上によって発展していく考えです。

 

この担い手となるのが、イノベーティブな技術やサービスによって中国で急速に育っている創新企業=イノベーション企業です。これらの企業は、さまざまな分野の技術・経験を取り入れてビジネスをグローバルに創り上げようとしています。

 

「中国企業は日本や海外で盛んにM&Aを行っていると聞きます。日本では、豊富な資金を持つ中国企業が投資目的で企業を買収していると受けとっているようですが、実際は質的レベルアップを図るために、彼らに欠けている経験を求めているのです」

 

日中企業の提携は第3のステージへ

 

日本と中国の企業提携には、これまで二つのステージがありました。第1の提携は中国が世界の工場といわれていた時代。日本企業は、低廉で豊富な労働力を活用するために中国企業と手を組みました。第2の提携は、中国が世界の市場として注目を浴びるようになってから。日本企業は中国でスムーズに商品を売るために中国企業と提携しました。そしてこれから起きるのが、中国のイノベーション企業と一緒にビジネスに取り組む第3の提携です。

 

「イノベーション企業の創業者は、海外に留学し、海外の最先端企業で経験を積んでから中国に戻ってきた、現在30~40歳代の人たちです。彼らが持つ活力を、日本企業はどう取り込んでいくのか。それが第3の提携では重要になると思います」

 

中国のイノベーション企業は、スマートで動きが早く、グローバルな常識感覚も持っています。「日本企業は、ひと昔前の中国企業に対するイメージを捨て、彼らの成長力や開発力、政府対応力を活用して、一緒にビジネスを創り上げていくことが大切」と川嶋は言います。

 

好き嫌いの感情に左右されるのではなく、日本の隣にある巨大市場を冷静に見つめて対応していく。国際競争を生き抜くうえで、日本企業には避けて通れない道といえそうです。

 

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