フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ NRI JOURNAL 日本はIoT後進国になってしまうのか?

NRI JOURNAL

未来へのヒントが見つかるイノベーションマガジン

クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

日本はIoT後進国になってしまうのか?

#IoT

2016/10/31

今やさまざまなメディアでその文字を見かけない日はなくなったIoT(Internet of Things, モノのインターネット)。IoTとは、その名の通り、さまざまなモノをインターネットにつないで、通信や制御をするシステムやサービスのことです。つながれるモノには、工作機械や建設機械などの産業機器もあれば、医療関連機器や社会インフラ用の計量機器、センサーなどもあります。これらのモノを、インターネットを通じて自動的に認識・制御し、さらには遠隔での監視・制御を可能にするのがIoTです。

 

日本でも、製造業を中心に導入が進み、日常的に稼働させているという話もよく聞くようになりました。しかし、日本ではようやく具体的なイメージを伴う議論ができるようになった一方で、米国では産業の垣根を越えた複数の企業が共同開発して先進的な事例を次々と世に送り出し、ドイツでは国を挙げて工場のデジタル化とその標準化を強力に推し進めています。世界のIoT市場において、欧米と肩を並べて戦えるようになるために、日本の産業界は今何をすべきなのでしょうか。

 

IoTの基盤はM2M

 

さまざまな機器や機械が自律的に通信したり制御を行ったりできるようにするには、通信機能をもたせることが必要です。このモノ同士を通信させる機能がM2M(machine to machine)と呼ばれるシステムで、M2MなしにはIoTは実現しないと言えます。

 

日本のIoT技術の将来を見据えるために、このIoTの基盤といえるM2Mに注目してみましょう。M2Mは、日本市場だけ見ても、2015年度から2020年度までに倍近くに成長すると予測されています。分野別の内訳をみると、現時点では工場設備・産業機器と並んで、エネルギー分野での導入が進んでいます。

 

M2M市場規模予測

 

 

エネルギー分野のM2M市場はスマートメーターの導入が一段落するとみられる2017年度以降縮小に転じますが、M2M市場全体は、他の分野での拡大によってそれ以降も順調に成長していきます。特に最近では、ビニールハウス内の監視など農業でもM2Mの新たな活用法が見出され、家電製品やデジタル機器へのセンサーの組み込みも進んでいます。さらに、医療機器や健康管理機器など、人が直接利用する機器と通信するためのシステムのニーズも増えていくでしょう。M2Mを取り入れる分野が広がると市場全体も拡充し、そのシステムの上で展開されるIoTサービスは充実していくことが期待されます。

 

日本発のIoTサービスへの期待

 

IoTは、つながれたモノを通してデータを取得・収集し、それを蓄積・加工・処理、そして活用するという3つのステップを通じて、システム全体の管理を効率化します。M2Mを基盤として広がるIoTのサービスは、多岐にわたることになるでしょう。

 

日本国内でのこれまでのIoTの活用方法を見ると、自動販売機の在庫を管理しやすくする、事務機器の使用量を検知し障害状況を把握する、建設機械の稼働を管理し自動運行を支援するなど、個別企業における個別機器の管理運用の域を出ませんでした。しかし今後を展望すると、例えばドライバーが自動車を運転する際の傾向をもとに保険料を算出したり、自動車の走行距離やバッテリー充電歴なども加味して中古車の買い取り価格を割り出したりなど、人やサービスをも巻き込みながら、さまざまな関連業界へ発展していくでしょう。

 

産業の垣根を越えた融合こそ日本発IoTのカギ

 

IoTがさらに進化していくためには、高性能センサー、大容量高速ネットワーク、エッジコンピューティング、リアルタイム制御、情報セキュリティ、ビッグデータ、人工知能など、さまざまな技術のさらなる開発が必要不可欠です。しかし、IoTでつながるモノの数や範囲、時間や性質の多様さ、膨大さを考えても、必要な技術開発を企業や機関が個別に進めるのでは限界があります。センサーや機器のメーカー、最終製品のメーカー、システムインテグレーター、通信事業者、研究機関などが、それぞれが持つ技術や知見を結集し協調した取り組みを進めることが、開発をスピードアップさせてより優れたものを創りだす近道です。

 

欧米では産業の壁を越えた連携や国を挙げてのプロジェクトによってIoT技術の開発が進んでいる一方で、日本ではこのような水平統合が進んでいません。日本には、世界的に高いシェアを持つ輸送機(自動車)、精密機器、産業機器、制御機器、センサーなどのメーカーがあり、高い技術を誇るインフラやエネルギー関連のメーカーもあります。これらのメーカーは、蓄積された設計・生産・運用保守に関するデータを持つと同時に、機器の取り扱いに優れ生産・保全での深い知見を持つ技術者を数多く抱えています。IoTの実現には、機器の取り扱いのノウハウや、機器制御技術、センサー開発技術が欠かせません。すなわち、日本が既にもっている高い技術開発力を結集することで、日本発のIoTを実現できる可能性が十分にあると言えます。IoTの世界競争に日本が生き残るためにも、産業をまたいだ取り組みの一刻も早い本格化が必要です。

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn
NRIジャーナルの更新情報はFacebookページでもお知らせしています

NRI JOURNAL新着