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「生産性向上」を考える

執行役員 小原 康司

#DX

#経営

2018/01/15

世の中には「生産性向上」という言葉が溢れているが、日本の労働生産性は主要先進7カ国の中では最下位の状況が続いており、国を挙げての課題となっている。

これまで生産性向上というと、「どれだけコストを削減できるか(コスト生産性)」という観点が中心だった。日本企業は「カイゼン」に代表される企業(組織)としての量の最大化を目指してきた。しかし、今求められているのは「どれだけ時間を創出し、新しいことに挑戦できるか(付加価値向上)」という観点である。創出された時間を「何に、どのように使い、新しい価値をどのように生み出していくか」という質の向上が問われてくる。

筆者がこれまで携わってきたシステム開発を例にとって、生産性向上について考えてみたいと思う。

 

ハードウエアの進歩によるコスト生産性の時代

 

2000年代になり、高価なホストシステムから廉価なサーバー中心のシステムへの置き換えが一気に進んだ。ハードウエアの性能が劇的に進歩し、ホストシステムを代替することが可能となり、IT費用の削減が強く求められた。この結果、「短期大量生産型(短期間かつ大規模かつ低コスト)」でシステムを構築することが必要とされ、システム開発のあり方が大きく変化した。

 

それ以前は、職人ともいえる技術者を中心としたシステム開発であり、技術者の頭の中にあるシステム仕様は、誰も代替できない状態であった。いわゆる属人化である。ところが短期大量生産型に変わると技術者不足に陥ってしまい、この解決策として、オフショア開発に大きく舵を切ったのである。ただ、当時のオフショアは、システム開発経験の乏しい若い技術者しかおらず、一定の品質を確保することが困難であった。このため、技術者の能力や経験による品質のブレをなくし、均質な成果物を得るために標準化を強力に推進した。標準化の推進が可能だった理由は、技術要素が画一のため、開発プロセスをルール化し、マニュアル化することが容易だったからある。その後、改善を積み重ねることで、大きな効果を発揮した。「どれだけコストを削減できるか(コスト生産性)」の生産性向上である。

 

デジタル時代到来による環境変化

 

ところが、ここ数年この環境にも大きな変化が起きている。まず、オフショアの生産拠点でのコスト高騰である。新興国の経済成長率は非常に高く、2000年代当初より、10年経過すればコストが倍になることは分かっていたことではあるが、一時期の円高によりコスト高騰の進行に疎くなっていたのである。

 

さらに、これまでは短期大量生産型が前提であったがその需要は一巡し、適時適量生産型(必要な時に必要なだけ)に環境が変化した。結果、求められる技術者像は「標準化された単能工」から、「複数の開発プロセスを柔軟に対応できる多能工」が必要とされる状況に変わってきたのである。

加えて、IoT・AI・FinTech・ブロックチェーンなど、さまざまな技術に代表される「デジタル」時代の到来である。デジタルの影響は非常に大きく、新しいビジネスの進め方を構築することや新しいビジネスモデルに挑戦することなど、ITに求められる要素も大きく変化してきた。

 

技術者の育成と先進技術の見極めによる付加価値の向上へ

 

われわれはデジタル時代という新たな領域に突入している。この際「どれだけ時間を創出し、新しいことに挑戦できるか(付加価値向上)」の生産性向上の下、既存事業領域の生産性を飛躍的に向上させ、新たな事業領域に経営資源を積極的に投入していくことが重要である。

既存事業領域は、生産性をこれまでとは違うレベルで向上させ、新たな事業領域に大規模なリソースシフトを可能とすることが求められる。実現のためには、多数の標準的な単能工の技術者で行っていた既存の生産方式から、少数精鋭の多能工の技術者を中心とした新たな生産方式に変える必要がある。

新たな事業領域は、圧倒的なスピードで変化する技術の積極的な採用と、導入を実現するための人材の専門化が求められる。技術要素単位で組織・技術者を集約し、より専門性を高める必要がある。

生産性向上は、コスト生産性から付加価値向上へと大きく変化していく。付加価値向上が求められるデジタル時代の中で、企業の成果を最大化していくためには、「技術を使いこなせる多能工技術者の確保・育成」と「先進性と成熟度を見極めて技術を選択し、積極的に導入していくこと」が肝要であるといえる。

 

最近、筆者に対し、ある若手社員から質問があった。「私、自由な時間ができても、やることが分からないのです」 生産性向上によって創出された時間の使い方は、「個」の意識に依存するところがますます大きくなる。われわれは、個の力が、より試される新たな時代へ突入しているのである。

 

 

(知的資産創造11月号 MESSAGE)

ナレッジ・インサイト 知的資産創造

特集:デジタル企業への変革

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