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法定雇用率引き上げに伴う障がい者雇用の「多様化」と「高度化」

社会システムコンサルティング部 水之浦 啓介、未来創発センター 2030年研究室 石原 一弥、金融コンサルティング部 寺下 胡桃

#経営

2018/02/14

今、障がい者雇用を取り巻く環境が大きく変わりつつあります。厚生労働省は、民間企業における障がい者の法定雇用率※1 2.0%を2018年度から2.2%に引き上げ、2020年度末までに2.3%に引き上げることを2017年5月に決定しました。また、2018年度には、法定雇用率の算定基礎に精神障がい者が新たに加わります。野村総合研究所(NRI)およびNRIみらいは、今回の法改正・施行は、障がい者雇用に“多様化”と“高度化”という変化をより促進させる可能性があると考えています。このような環境の変化を受けて、企業は今後どのような対応を求められるのでしょうか。

 

障がい者雇用の人材と業務の「多様化」

 

NRIが2017年に実施したアンケートによると、2018年度に施行される法定雇用率2.2%をアンケート実施時点で達成している上場企業は、31.8%にとどまっています。つまり、今後約7割もの企業が法定雇用率達成に向けて、新たに雇用拡大することが求められているのです。

このように、多くの企業が障がい者の雇用拡大を求められている中、法定雇用率の上昇と合わせて精神障がい者が法定雇用率の算定基礎に加えられることで、従来、中心的に雇用されてきた身体障がい者・知的障がい者に加えて、精神障がい者の雇用拡大に取り組む企業が増し、人材の“多様化”が進むことが想定されます。また、これまでは、企業で働く障がい者は、事務補助や清掃・管理などの業務を主に担っていましたが、働く障がい者の増加・多様化により、業務内容の拡大が求められることが想定されます。

 

「高度化」が求められる障がい者雇用のマネジメント

 

このような組織・業務内容の“多様化”に伴い、企業には従来以上の“高度な”マネジメントが求められることとなります。一般的に、マネジメントスキルの向上といえば、見える化の浸透やPDCAサイクルの導入などが挙げられますが、NRIは人材獲得・人材育成に着目しました。

 

組織・業務内容の“多様化”が進む中、企業は「“多様”な業務に“多様”な人材をどのように当てはめるか」という問題に直面します。また、その中でも特に、技術やスキルが必要とされるような業務を担う人材を獲得し育成をすることが、企業としての中長期的成長を支え、さらに障がい者自身の成長やモチベーション維持を実現すると考えられます。

 

人材獲得・人材育成の側面から見た「多様化」と「高度化」の解決策とは

 

では、今後、企業はどのように人材獲得・人材育成を実施していけばよいのでしょうか。NRIは「外部支援機関との連携」が効果的ではないかと考えています。

 

障がい者(特に精神障がい者)の雇用に際しては、勤務時間内や勤務場所以外での体調管理や業務以外の自己管理といった点に留意する必要がありますが、外部支援機関と連携することで企業外部の情報も含めたマネジメントが可能となります。また、障がい者の育成に際しても、自社の研修はもちろん、外部の支援機関などとのより一層の連携をはかることも一つの方法です。

 

NRIがドイツで実施した調査によると、IFDと呼ばれる就労支援機関が、障がい者の就業斡旋を実施しており、あるIFDでは1人の就業斡旋に約10カ月もの期間を要することもあります。また、障がい者が企業に就職した後も、企業と障がい者の両社に対してカウンセリングや業務上のアドバイスを行います。このように、長い時間をかけてマッチングを行うことで、さまざまな企業・業務に最も適した人材を特定することを可能とし、結果として日本よりも高い雇用率を維持しています。

 

日本においても、外部支援機関との連携が効果を挙げているというデータがあります。NRIが2017年に実施したアンケートにおいて、精神障がい者雇用に際して、組織の生産性維持・向上および管理コスト抑制のための取り組みのうち、特に効果的だったものとして、「支援機関等、外部機関との関係性強化」が挙げられています。

 

 

“多様化”“高度化”する障がい者雇用の環境下で、NRIは人材獲得・人材育成に焦点を当て、「外部支援機関との連携」という一つの解決策を示しましたが、企業が今後越えなければならない課題は他にも多く存在しています。今、日本の障がい者雇用は、“高度化”“多様化”という2つの軸を意識しながら、従来とは異なる方向に向かったマネジメントの変革が必要な時期に差し掛かっているのではないでしょうか。

 

 

  • 1 法定雇用率:
    「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づいて、民間企業、国、地方公共団体は常用雇用者数に対して一定以上の割合で、障がい者を雇用することが義務付けられており、それぞれの事業主が、義務として障がい者を雇用する比率を法定雇用率といいます。2017年12月現在、一般の民間企業の法定雇用率が2.0%、都道府県等の教育委員会が2.2%、国及び地方自治体、特殊法人等が2.3%となっています。法定雇用率を達成している企業の比率は、2013年以降上昇し続けており、2016年6月には一般の民間企業48.8%が法定雇用率を達成しています(内閣府「平成29年版 障害者白書」)。
  • 2 特例子会社:
    障がい者の雇用に特別な配慮をし、法律が定める一定の要件を満たした上で、障害者雇用率の算定の際に、親会社の一事業所と見なされるような「特例」の認可を受けた子会社を指します。特例子会社は別法人のため、障がい者のニーズやスキルに応じた環境整備や制度設計が可能です。特例子会社は増加を続けており、2016年6月1日時点で448社となっています。2011年6月1日と比較すると、特例子会社は129社増加しました(厚生労働省「特例子会社一覧」、「「特例子会社」制度の概要」)。
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