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木内登英の経済の潮流――キャッシュレス化のメリットを考える

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

#DX

#木内 登英

#時事解説

2018/03/09

日本人は小口決済に現金を利用することを最も好む国民ですが、その背景には現金利用に大きなコストがかかっていることが十分に理解されていないこともあるでしょう。キャッシュレス化には、社会全体の経済効率を高めるメリットがあります。

日本での現金利用は突出して高い

日本では現金流通額が名目GDPに占める比率が2割程度と、主要国の中で突出して高い状況にあります。北欧諸国のように現金が急速に減少することを心配するような議論も、日本では聞かれません。日本国内には現金が溢れているといっても過言ではありません。

日本で現金利用が好まれる背景には多くの要因が考えられますが、そのうち代表的なものは、①個人情報に敏感で、取引履歴を他人に捕捉されることを嫌う日本人は、匿名性が完全に確保される現金での決済を好む、②他国と比べて治安が良いため、現金を持ち運ぶことの不安が比較的小さい、③日本銀行が現金流通に万全を期しているため、どのような地域でも現金が不足する事態が生じにくく、また紙幣のクリーン度が高い、などです。

現金利用のコストを認識する必要がある

このように、日本では現金を決済に利用することに多くの人が不便を感じていないため、スマートフォン決済など現金以外での決済を拡大させる誘因が生じにくい面があります。

しかし、そのように不便なく現金を使うことができるために、実は大きなコストがかかっているのです。例えば、直接的なものでは、紙幣・硬貨を製造するコスト、それを保管、輸送するコスト、また現金を取り扱う人件費、現金を出し入れするATMの製造費及び維持費などが挙げられます。それらのコストは日本銀行と民間銀行が負担していますが、最終的には現金の利用者におおむね転嫁されていると考えられます。例えば日本銀行については、現金に関わる経費の分だけ政府の歳入となる国庫納付金が減少しており、それは見えにくいですが、国民の負担なのです。

 

米国での現金コストは名目GDP比1%超との試算も

 

現金のコストを試算したものに、タフツ大学の研究チームによる調査があります。それによると米国での現金のコストは年間2,000億ドル超に達します。これは名目GDP比で1.2%にも相当します。

この調査では、現金のコストを、家計、企業、政府の3つの部門に分けて、それぞれ推計されていますが、政府にとってのコストは1,010億ドルと、個人や企業に比べて倍以上の大きさと見積もられています。この内訳には、硬貨や紙幣の製造・輸送などのコストに加えて、現金を利用した避税行為等による税収減が含まれています。

 

 

日本での現金コストは16兆円超、GDP比3%との計算も

 

名目GDPに占める現金発行額の比率で、日本は米国の2.5倍にも達していることを踏まえると、それを単純に上記の計算に当てはめた場合には、GDP比3.0%、16.5兆円もののコストが毎年日本で発生していることになります。

また現金利用のコストは、もっと広い概念で捉える必要があります。多くの国で現金、特に高額紙幣は犯罪に使われるケースが多々見られます。キャッシュレス化の遅れが犯罪の発生を促し、治安を悪化させている面があるとすれば、それは社会的コストと理解できます。また、現金の利用については、衛生面での問題も指摘できるでしょう。紙幣や硬貨を媒介して感染症が広がる可能性や、それを利用したテロが発生する可能性も考えられ、これも広い意味での現金利用のコストです。
このように現金利用のコストを広い概念で捉えた場合、それは相当な規模に膨らむ可能性があるのです。逆に考えれば、現金利用を減少させるキャッシュレス化を進めることで、社会全体のコストを下げ、経済効率を高めることができます。その潜在力はかなり大きいと考えられます。

 

ニュースリリース

「キャッシュレス社会実現に向けた論点整理」を公表

 

 

木内登英の近著

異次元緩和の真実

前日銀審議委員が考えに考え抜いた日本改革論

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