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NRI トップ NRI JOURNAL DX2.0への挑戦

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DX2.0への挑戦

代表取締役社長 此本 臣吾

#経営

#DX

#CX

2018/04/04

2017年は日本の「デジタルトランスフォーメーション」(DX:デジタル技術を活用したビジネスモデル変革)元年ではないかと思っている。野村総合研究所(NRI)では10年頃からDX関連のコンサルティング案件が増加していたが、それに続くIT投資はPoC(Proof of Concept:コンセプトの検証)にとどまるものが多かった。それが17年には、コンサルティングに続いてDXを具体化するIT投資プロジェクトが増加してきたのである。一部の先駆的な企業だけでなく、幅広い企業でDXに関連するIT投資が始まっており、DXが本格的に動き出した感がある。この動きは息長く拡大を続けるであろう。

一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査2017」によると、ビジネスのデジタル化について「すでに実施済みで効果が出ている」という回答企業の比率は5.4%である。これに「実施中で効果検証中」と「実施を検討中」を加えても4割弱であることからも、DX投資はまだ始まりの段階に過ぎないといえるであろう。

DXの効果について、当社の共同研究パートナーであるマサチューセッツ工科大学(MIT)スローンスクールでは2つの評価軸を用いて分析している。一つ目の評価軸は「経費率の改善」である。AI(人工知能)やアナリティクス、RPA(Robotic Process Automation:ロボットを活用したプロセス自動化)を使った業務の効率化、あるいはインターネットでのダイレクト販売による中間流通マージンの抜本的削減など、デジタル化によって主にコスト削減を狙うもので、現在のDXの主流はこの類の案件である。二つ目の評価軸は「カスタマー・エクスペリエンス(CX)」の向上である。CXは直訳すれば顧客体験だが、サービスや製品の認知から購入、さらには評価の一連のプロセスの中で顧客とそのブランドとの間に作られる強い信頼関係を意味している。そう考えるとCXはブランドへの顧客ロイヤリティと言い換えてもいいかもしれない。

デジタル化は、インターネットを活用した顧客とのダイレクトなコミュニケーションを可能とする。ロイヤルティが最も高い顧客層には徹底したハイタッチな対面サービスを提供するとしても、その次以下の裾野が広い顧客層のロイヤルティを効率的に高めるためには、デジタル化を活用した人手をかけない施策が効率的である。
実際、当社の「インサイトシグナル」(シングルソースデータを活用したCX効果分析ツール)で消費財メーカー某社のCX効果測定をしたところ、デジタルプロモーション施策、マスメディア活用、店頭プロモーションの3つの手段のそれぞれのCX向上効果は「デジタル>マスメディア>店頭」の順となった。一般的にDXはCXを高めるのに大変効果がある。

ではなぜ今、CXが注目されるのであろうか。
NRIでは毎年3000人程度を対象とした生活者意識調査を行っている。インターネットショッピングでの購買意向や実際の利用回数は着実に伸びているが、インターネット上での事前の情報収集については、もともと盛んだった旅行や情報機器、家電といったカテゴリーでその割合が減少に転じているのである。当社が3年ごとに実施している「生活者1 万人アンケート調査」においても、インターネットで商品を徹底して調べてから買うという「徹底探索消費」は、15年の調査を境に下降に転じている。逆に、商品を選ぶ際に「情報量が多すぎて困る」という回答が7割近くになっている。つまり、生活者はあふれる情報に「選び疲れ」を起こしていて、あれこれ比較検討をするよりも、多少高くても信頼を寄せている高いロイヤルティを持つブランドを選ぶ方にシフトしつつある。商品選択におけるブランドの価値、CXの重要性はかつて以上に高まりつつある。

企業の持続的成長のためには売上を伸ばしていかなくてはならないが、それにはCXの改革が是非とも必要になる。前掲のMITによる全米数百の企業を対象とした調査では、DXにより利益率の改善のみならずCXの向上が実現できている企業は23%という結果になっている。調査方法が異なるため単純な比較はできないが、JUASの調査結果と比較すると、米国のDXは日本のそれを上回るスピードで進んでいる。
ではどうすれば日本のDXを加速できるのか。NRIは一つの方法論としてDXラボの設置を推奨している。DXラボとは、プランナー(ビジネス戦略や施策を立案)とITエンジニア(必要なデータを収集して分析可能にするためのシステムを作成)、データアナリスト(統計手法に精通しデータに基づいてビジネスに必要なインサイトを作成)が三位一体となった組織である。NRIはチームを組成してお客様と協働してラボを運営するスキームを提案している。
NRIでは、業務プロセス変革に寄与するDXを「DX1.0」と呼び、ビジネスモデルそのものを変革するDXを「DX2.0」と呼んでいる。コンサルティングとITサービスを総動員し、NRIのリソースの投入を通じてDX2.0の構築に挑戦するお客様を支援していきたい。

(知的資産創造2018年4月号「MESSAGE」)

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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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