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木内登英の経済の潮流――キャッシュレス化社会は政府、日本銀行が主導

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

2018/09/19

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決済に現金を利用しない比率、つまりキャッシュレス比率は日本では2割弱ですが、政府はこれを2025年までに40%へ引き上げることを目指しています。

現金利用のコストは大きい

現金の利用には、現金製造や流通、警備に必要な費用、ATMでの現金引き出しに要する時間、脱税を促し税収を減少させてしまうことなど、さまざまなコストが掛かっていて非効率な面があります。そのため、通貨のデジタル化を進めていけば、多くの人々や企業は、諸外国に比べて高い決済コストを負わされ続けることがなくなります。また、身近にある通貨のデジタル化は、多くの人がITのリテラシー(知識)を高め、経済全体のデジタル化により適用していくことも助けるでしょう。その結果、経済全体の効率化を促すことにもなります。
デジタル通貨としてまず思い浮かべるのが、ビットコインなどの仮想通貨です。ビットコインは投資対象としての取引は急速に増加しましたが、本来期待されていた決済手段としての利用は、依然として限られています。価格変動の激しさがその大きな妨げとなっているからです。将来、価格が暴落すれば投資対象としての信頼性に留まらず、決済手段としての信頼性もほとんど失ってしまうかもしれません。

広がるスマートフォン決済

一方で、楽天、LINE、ヤフーなどのネット企業が、スマートフォン決済を拡大させています。利用者ばかりでなく店舗側にも手数料無料のサービスを提供することで、スマートフォン決済を一気に普及させようとしています。こうしたネット企業は広告収入で儲けるというビジネスモデルであるため、決済手数料の無料化が可能となります。銀行もスマートフォン決済に乗り出そうとしていますが、決済サービスは手数料収入で成り立たせるというビジネスモデルしか経験したことがないため、やや不利な戦いとなりそうです。
ネット企業などによるスマートフォン決済が広がると、銀行預金による決済が一定程度減っていくことになります。これは銀行にとっては、大きな収益減となってしまいます。それを食い止めようとして、銀行も自らスマートフォン決済サービスに乗り出そうとしているのですが、それも、自らの既存の決済手数料収入を減らしてしまうことには変わりはありません。 このように銀行にとっては、スマホ決済サービスに乗り出すことは、自らの収益基盤を切り崩すことにもなるという、大きな自己矛盾を抱えています。それもあって、この分野に一気にリソースを全力投入していくのは難しいのではないかと思います。

キャッシュレス社会を主導するのは政府、日本銀行

日本のキャッシュレス化は、このように民間主導で進んでおり、政府はそれを側面から支援しています。しかし、いずれは政府、日本銀行が主導する形でキャッシュレス化を進める必要が出てくるように思います。社会インフラとしてキャッシュレス化を実現するには、すべての人がスマートフォン決済などを利用できる環境を作らなければなりません。経済的理由などから、自力でスマートフォンなどの決済機器を手に入れられない人々には、福祉の観点からの支援も必要となります。それを民間企業が行うのは難しいでしょう。
さらに、デジタル通貨に限らず、日本にはインターネットなどITを利用することへの不安が蔓延しています。ネット詐欺など安全面での不安や個人情報の流出・流用への懸念が、デジタル化の大きな障害となっているのです。こうした問題は、本来、民間の努力によって克服すべきですが、それにはかなりの時間を要します。公的部門への信頼が厚い日本では、政府や中央銀行の主導による解決の方が、人々の不安を解消するには効果的かつ現実的だと思われます。
ITリテラシーの問題もあります。デジタル通貨の普及には人々が最低限のITスキルを身に付け、ITリテラシーが浸透していることが前提ですが、日本はそのような状況にありません。諸外国と比べITスキルは必ずしも高くなく、高齢者層を中心にITリテラシーが十分でない人が少なくありません。こうした状況はさまざまな教育の機会を通して改善する他ありませんが、それも公共部門の重要な役割です。
通貨のデジタル化が遅れるほど、経済全体のデジタル化でも、日本が諸外国にますます大きな差を付けられてしまう可能性があります。世界のデジタル革命に取り残されるようなことがないように、日本銀行と政府は、通貨のデジタル化に主導的役割を担う覚悟を国民に示し、日本銀行デジタル通貨の発行に向け本格的な検討を始めることが重要だと思います。

木内登英の近著

決定版 銀行デジタル革命: 現金消滅で金融はどう変わるか

決定版 銀行デジタル革命: 現金消滅で金融はどう変わるか

加速するキャッシュレス化、メガバンクのデジタル通貨構想、世界の中央銀行の動きまで

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