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デジタル資本主義を勝ち抜く力

専務執行役員 コンサルティング事業本部長 村田 佳生

2019/04/08

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2018年出版の野村総合研究所(NRI)此本臣吾社長監修『デジタル資本主義』の中で言及しているように、現在は18世紀以来続いてきた「産業資本主義」から「デジタル資本主義」への移行期にあると考えられる。産業資本主義の時代は、労働力・労働生産性が企業の付加価値・富の源泉であったのに対し、デジタル資本主義の下ではデジタルデータの集積と、それを活用した知識生産性が富を生む時代になる。実はここに日本企業固有の落とし穴があるが、十分に認識されていない。

日本企業の足かせとなる「完璧主義」

日本企業には、業種を問わずビジネスの世界にも完璧を求める、品質へのこだわりがある。消費者を含めたほかのステークホルダーも当然のこととして企業に完璧を要求するが、それがデジタル資本主義に移行する際の足枷になりかねない。一例として、無人店舗について日米比較をしてみよう。
スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの小売店舗を、デジタル技術を活用して無人化する取り組みが各国で始まっている。消費者は陳列されている商品を買い物かごなどに入れ、有人のレジで精算しない店舗を作ろうというものだ。人材不足に対応でき、大幅な人件費削減の可能性がある。
ところが、これを実現するためのアプローチが、日本と米国・中国ではかなり異なる。日本の無人店舗は、商品1 点1 点にICタグを付け、そのデータをロボットレジで読み取る。これだと誤精算や万引きの恐れがほとんどないので、確実で安心できる。しかし、ICタグの単価は、現在1 個10円ぐらいであろう。将来的には1 円以下に下がるという見込みはあるものの、売価100円の清涼飲料水にまでICタグを付けていては採算が取れない。また、機械も高額であり、故障の可能性もある中で、人手不足が差し迫っている現時点では解決策にはなりにくい。
それに対して、米国や中国の無人店舗は、店内に設置された複数のカメラで客の動きを把握し、商品を買い物かごに入れた時点で購買したものと見なす(無論、再び棚に戻せば買ったことにはならない)。確かに誤精算や万引きのリスクをゼロにはできないが、設置・運営のコストが安く、すぐに実装できる強みがある。実際、既にAmazon Goで実現している。
デジタル資本主義の時代は、いかに早く商品・サービスを市場に出せるかが勝負であり、多少のミスや損失があっても、走りながら修正すればよい。その辺りを割り切らないと、世界で勝負することはかなわない。

マネジメントの視点から見るデジタル資本主義への壁

もう一つ、デジタル時代の落とし穴がある。それは「現場の自主性」である。日本のある自動車販売会社では、ビッグデータ分析によるターゲット顧客の優先順位付けに着手した。営業プロセスや成約要因に関して過去のデータを分析し、有望顧客の判定や営業をかけるタイミング、営業トークをアドバイスするのである。
しかし、コンピュータが導き出した有望顧客に対する判断とベテラン営業スタッフの判断は必ずしも一致していなかった。「お客様のことは俺が一番知っている」というベテランならではの成功体験やプライドもあり、取り組みはまだら模様であった。他方、営業ノウハウや営業実績のあまりない若手社員たちは、コンピュータのアドバイスに飛びついた。彼らには先入観や余計なプライドはないため、指示通りに営業を行った。そして半年が経過してみると、成績の低かった新人社員が、同期平均を上回る営業成績を残したのである。全店の販売実績が減少する中で、真剣に取り組んだ店舗は前年を上回ることになった。
この事実は、日本企業の組織マネジメントを180度転換させるほど重要な意味を持つ。日本企業はこれまで、生産現場においても営業現場においても、「現場の自主性」を尊重してきたため、組織マネジャーにとって現場のやる気を促すことが重要であった。しかしデジタル時代になると、組織マネジャーの仕事はコンピュータの指示を部下に忠実に実行させることがより重要になる。コンピュータが判断する方が効率的である上に実際に効果的なので、そこに人間が介在すること自体がリスクとなる。つまりデジタル時代は、日本の組織マネジメントの常識を変えなくてはいけないのだ。
以上のことを通じて強く言いたいのは、産業資本主義の時代には日本的経営の美徳・強みとされてきた「品質へのこだわり」や「現場の自主性の尊重」などが、デジタル資本主義の時代にはその使い方を誤ると一転して弱みに変わってしまうという残酷な現実である。現在、デジタル化で最先端を走っている国は中国である。確かにデジタル化のアイデアやビジネスモデル、新技術は米国発のものが多いが、最初に市場に導入し、実装するスピードに関しては、いずれの国も中国に敵わない。社会主義体制だった国が、デジタル資本主義の最先端にいるというのは何とも不思議な光景であるが、現地に行き、現物を見て知った、これも現実である。
このようなコンピュータが示す現地・現物・現実から学び実行することが、日本企業がデジタル資本主義を勝ち抜く力につながるのだと思う。

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