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NRI トップ NRI JOURNAL 木内登英の経済の潮流――「近づく消費増税の影響を考える」

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木内登英の経済の潮流――「近づく消費増税の影響を考える」

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

#木内 登英

#時事解説

2019/07/16

今年10月の消費増税実施が、いよいよ近づいてきました。国内景気が下振れする中、その影響が心配されています。しかし、消費増税の日本経済への悪影響は大きくないと思われます。国内景気の方向を決めるのは世界経済の行方でしょう。

自動車の駆け込み購入の動きは鈍い

内閣府が7月1日に公表した6月分消費動向調査では、消費者心理を反映する消費者態度指数(季節調整値)は9か月連続での低下となりました。10月の消費増税実施が、消費者心理に影響を与えています。
この消費者態度指数を構成する指標の中で、「耐久消費財の買い時判断」に注目しましょう。前回2014年4月の消費増税実施時には、前年2013年の年初からこの指標は顕著に上昇し、年末に急速に下落しています。この間、消費者は消費増税前の駆け込み購入の意欲を高めたのでしょう。
今回は、この指標は上昇することなく、今年年初から下落を続けている点が、前回の消費増税前とは大きく異なっています。これは、耐久消費財の駆け込み購入の動きが今回は鈍い、という多く人の指摘とも整合的です。
経済産業省の小売販売統計によると、自動車は2014年4月の消費増税引き上げの2四半期前、家電製品などの機械器具については1四半期前に、名目販売額の前年同期比は急速に高まりました。前者は+14.3%、後者は+19.5%です。
ところが、現状では、消費増税実施の2四半期前、つまり2019年4-6月期(4-5月の数値からの試算値)の前年同期比は、自動車が+0.0%、家電製品などの機械器具は+3.9%にとどまっています。

前回消費増税時との違いは何か

前回の消費増税前と比較して、今回の駆け込み購入の動きが鈍い理由として考えられるのは、主に次の4点です。第1は、今回の消費税率の引上げ幅が2%と、前回の3%よりも小さいことです。第2は、耐久消費財の駆け込み購入が、前回の消費増税前にかなり出てしまったことです。2014年の消費増税時には、翌年2015年にさらに2%の消費増税実施が予定されていました。そのため消費者は、合計で5%分の増税実施を見越して、かなり先の分まで耐久消費財の購入を前倒ししたと見られます。第3は、自動車を中心に、消費増税対策の減税が実施されることです。2019年10月1日以降に新車登録をした乗用車では、関連する税金の税率が下がります。そのため、消費増税前に自動車を購入するという消費者の意欲が削がれている面があります。第4は、政府が消費増税実施を過去2回と同様に先送りする、との観測が根強く残ったことです。

消費増税の経済への悪影響は大きくない

こうした要因が、駆け込み購入を押さえてきたのでしょう。このうち、第4の要因はこの先着実に薄れていくことから、今後は駆け込み購入の動きも出てくるでしょう。それでも第1~第3の要因によって、比較的抑制され続けるのではないかと思います。
駆け込み購入の動きが鈍いのであれば、駆け込み購入の反動もまた、前回消費増税後よりも小さくなるはずです。さらに、消費増税に伴う家計の実質所得減少とちょうど同額の2兆円超分、政府は消費税対策を実施します。これは、増税の財政健全化効果を削いでしまうという問題がありますが、その結果、消費増税の経済への悪影響は相殺されやすいのです。
こうした点から、消費増税の影響のみで国内景気が悪化傾向に陥る可能性は小さいのではないかと思われます。国内経済の方向性を大きく決めるのは、世界経済など海外要因でしょう。

プロフィール

木内登英

エグゼクティブ・エコノミスト

木内 登英

経歴

1987年 野村総合研究所に入社
経済研究部・日本経済調査室に配属され、以降、エコノミストとして職歴を重ねる。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の政策委員会審議委員に就任。5年の任期の後、2017年より現職。
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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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