フリーワード検索


タグ検索

注目キーワード
業種
目的・課題
専門家
国・地域

NRI トップ NRI JOURNAL 木内登英の経済の潮流――「リブラに対抗し中国が中銀デジタル通貨発行へ」

NRI JOURNAL

未来へのヒントが見つかるイノベーションマガジン

木内登英の経済の潮流――「リブラに対抗し中国が中銀デジタル通貨発行へ」

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

2019/09/17

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

主要国で初めてとなる本格的な中銀デジタル通貨の発行が、中国で実現する見通しとなってきました。その動きを強く後押ししたのが、フェイスブックが公表した新デジタル通貨「リブラ」の発行計画です。

現金にとって代わることが狙い

リブラは、中国以外の地域でグローバルに利用されることが想定されていると考えられますが、中国当局は、いずれ中国でもその利用が広がることを怖れ、いわば先手を打ってそれに競合する独自の中銀デジタル通貨の発行を急いでいる可能性が考えられます。
この中銀デジタル通貨が実際どのような仕組みになるかについては、未だ明らかにされていません。そこで、中国人民銀行の関係者らによる断片的な発言から、以下で類推してみたいと思います。
中国人民銀行の中銀デジタル通貨は、銀行預金という民間銀行が提供する決済手段を代替するものではなく、中央銀行が発行する現金の機能を代替することを狙っているようです。中銀デジタル通貨が銀行預金を大規模に代替すれば、銀行預金が減少し、銀行経営に悪影響が及んでしまうためです。
他方で、中銀デジタル通貨が現金にとって代わっていく場合には、現金の製造、輸送、保管などに関わるコストが削減され、経済の効率性を高めるというプラスの効果も期待できます。

匿名性の高いデジタル通貨に

アリペイ、ウィーチャットペイという民間デジタル通貨、スマートフォン決済が既に広まっている中国にあって、敢えて中央銀行が中銀デジタル通貨を発行することで、これ以上のキャッシュレス化を進める必要があるのか、という疑問も出ています。
これに対して中国人民銀行は、アリペイやウィーチャットペイの決済は最終的には銀行口座の中で決済がなされるのに対して、新たに発行する中銀デジタル通貨は、銀行口座に依存しないものになる、と両者の違いを説明しています。具体的な仕組みは不明ですが、銀行口座に依存せずに決済が完了すれば、まさに現金に近い存在となります。
さらに、アリペイやウィーチャットペイなどと違う点として、中国人民銀行は、この中銀デジタル通貨の匿名性の高さをあげています。アリペイやウィーチャットペイで個人が店舗で商品を購入する場合、誰が、いつ、どこで、何を買ったのかといった取引履歴が、アリペイやウィーチャットペイに蓄積されます。そのデータを利用してアリペイやウィーチャットペイ、あるいは親会社に当たるアリババ、テンセントは利益をあげています。
しかし、中国においても、個人データが利用されることに抵抗を持つ人は少なくありません。それが、デジタル通貨の普及の妨げになっている、との認識が、中国政府、中国人民銀行にあるのではないかと思います。中国人民銀行は、現在の銀行カードやスマートフォン決済などでは、利用者が望んでいる匿名性が十分に確保されていない、と説明しています。
そこで、新たに発行する中銀デジタル通貨では、この匿名性の高さに重きが置かれた設計となったのです。この点でも、誰が使ったのか記録が残らない現金に近いものです。
ただし、中銀デジタル通貨の匿名性がどのように確保される仕組みとなるのかは、現在のところ明らかではありません。この中銀デジタル通貨は口座で管理されるのではなく、個々の利用者のスマートフォンなど端末に価値が移転され、蓄積されるような仕組みとなるのかもしれません。その場合は、電子マネーに近い存在となるでしょう。

人民元国際化の起爆剤に

中国政府、中国人民銀行は、リブラに対抗して中銀デジタル通貨の発行を急いでいますが、中国以外の国でも、その利用が拡大することを視野に入れているようです。
この中銀デジタル通貨は、中国と海外との間で人民元建ての送金がなされるような場合には、迅速で低コスト、さらに中央銀行の高い信頼性が担保された新たな国際決済手段を提供することができるでしょう。その高い利便性を背景に、人民元建ての国際決済取引が世界で広まるようになれば、それは人民元の国際化に貢献します。中銀デジタル通貨の発行を人民元の国際化の起爆剤とすることも、中国政府、中国人民銀行は狙っているのかもしれません。
いずれにしても、米中間での通貨の覇権争いという大きな歴史の流れの中で理解できるのが、この中国の中銀デジタル通貨の発行計画なのです。
人民銀行は、その完成は間近と述べています。具体的な時期は分かりませんが、年内にも実現するかもしれません。実際に発行されれば、それは主要国としては初めての本格的な中銀デジタル通貨の発行となるのです。中国以外の国を視野に入れているリブラの発行計画を受けて、中国の当局が真っ先に対応しようとしている、というのも興味深い点です。

プロフィール

木内登英

エグゼクティブ・エコノミスト

木内 登英

経歴

1987年 野村総合研究所に入社
経済研究部・日本経済調査室に配属され、以降、エコノミストとして職歴を重ねる。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の政策委員会審議委員に就任。5年の任期の後、2017年より現職。
  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn
NRIジャーナルの更新情報はFacebookページでもお知らせしています

お問い合わせ

株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

ACCESS RANKING