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木内登英の経済の潮流――「難航続くリブラ計画と通貨覇権争い」

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

2019/11/08

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新デジタル通貨リブラの発行計画にとって強い逆風、と広く認識されるイベントが10月に相次ぎました。実際には、リブラ計画はその発表当初から逆風に晒され続けた厳しい船出であり、その点が改めて確認された、という側面が強いでしょう。

逆風が吹き続けるリブラ計画

まず10月11日には、リブラ協会の設立メンバーから離脱する企業が出てきました。ペイパル、ビザ、マスターカードなど合計7社が抜けたのです。こうした大手決済会社の離脱は、リブラを利用できる店舗の確保という観点からは、計画にとって明らかに痛手です。その離脱には、リブラへの警戒を強める金融当局との関係悪化を避ける狙いがありました。しかし、実際にリブラが発行に漕ぎ着ければ、こうした企業もリブラ協会に戻ってくるのではないでしょうか。
10月17日・18日にワシントンで開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議では、リブラを含むステーブルコインに対する厳格な規制を導入することで合意しました。G7作業部会が10月17日に発表した報告書で、価値の安定が図られているステーブルコインについて、「法律や規制、監督上の課題とリスクに対応できるまで運用を始めるべきではない」とした主張を追認したものです。
こうした当局の厳しい姿勢は、リブラ計画発表直後から一貫したものです。しかし、具体的な規制案は依然として打ち出せていません。リブラ計画を巡っては、当局とフェイスブックとがお互いの出方をうかがったまま睨み合い、膠着状態に陥っている印象です。今後は、双方が直接対話をすることが重要でしょう。
さらに10月23日には、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)が、米下院金融サービス委員会でリブラについて証言をおこないました。同氏は、「米当局の承認が得られなければリブラをスタートさせるつもりはない」と説明しました。当初2020年前半としていたリブラの発行時期については後ずれも余儀なし、との姿勢を明確に示したのです。

リブラを既存の金融制度に取り込む

このように、ザッカーバーグCEOが当局に対してかなり従順な姿勢を維持していることは、実は、リブラ発行に向けた強い意志の表れでもあります。フェイスブックが規制を受け入れる姿勢を維持する限り、多くの人が低コストで金融サービスを利用できるようになる、いわゆる「金融包摂」を促す、という重要な社会的意義を持つリブラ計画を、当局が簡単に潰してしまうという選択はできない、ということを見越しての狡猾な戦略なのです。
こうした一連のイベントからは、リブラ計画への逆風が改めて確認できますが、それにもかかわらず、リブラ計画が頓挫してしまう明確な兆しは今のところ見られていません。
しかし、行き詰まってしまうことが仮にあるとしても、第2、第3のリブラ、つまりグローバルデジタル通貨は出てくるのではないでしょうか。フェイスブック以外のプラットフォーマーも、グローバルデジタル通貨の発行を計画する可能性があります。
リブラ計画によって、従来の金融の世界をひっくり返す、いわば「パンドラの箱」は既に開けられてしまったのであり、そのデジタル金融の新たな流れを逆行させることは、もはやできないようにも思います。
世界の金融当局は、民間が発行するデジタル通貨を既存の金融制度に取り込み、人々の利便性を最大限高めるために必要なとなる新たな規制の体系を、この機会にじっくりと検討してみる必要があるでしょう。

デジタル人民元の発行準備が進む

ところで、このリブラの発行計画に触発されて、中国は中銀デジタル通貨、いわゆるデジタル人民元の発行準備を急ピッチで進めています。実現すれば、主要国では初めてとなります。
中国は、国内ではリブラを排除する姿勢を示す一方、国外では、リブラに対抗してデジタル人民元の利用を拡大させることを狙っています。中国と国外との間で人民元建ての送金がなされるような場合には、デジタル人民元は迅速で低コスト、さらに中央銀行の高い信頼性も担保された、新たな決済手段を提供できます。その高い利便性を背景に、人民元建ての決済が世界でより広まるようになれば、人民元の国際化を前進させることが予想されます。
これは結局、ドルと人民元との覇権争いの一環と言えるでしょう。リブラを構成する主要国通貨バスケットには、ドルが半分程度のウエイトで含まれる見通しです。この点から、中国にとってリブラはデジタル・ドルなのです。
このように、リブラと中国のデジタル人民元の発行は、ドルと人民元との通貨覇権を巡る争い、という大きな構図の中で捉えることができるでしょう。

プロフィール

木内登英

エグゼクティブ・エコノミスト

木内 登英

経歴

1987年 野村総合研究所に入社
経済研究部・日本経済調査室に配属され、以降、エコノミストとして職歴を重ねる。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の政策委員会審議委員に就任。5年の任期の後、2017年より現職。

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