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未来へのヒントが見つかるイノベーションマガジン

クラウドの潮流――進化するクラウド・サービスと変化する企業の意識

式年遷宮の国から見たクラウド

常務執行役員 金融ITイノベーション事業本部長 林 滋樹

クラウド

2020/05/29

式年遷宮から数年の歳月が流れた2019年末、久しぶりに伊勢参りをしてきた。五十鈴川にかかる宇治橋のかつての鮮やかな白木の色は過去のものとなり、今は自然の色彩に埋もれている。多くの宮も数年の劣化を受け入れて森の一部となっている。地元の方との会話には既に次の遷宮の話題があり、この営みを千年以上続けてきたことにあらためて感銘を受けた。あえて古代技術と建築様式を守り続けて千年以上遷宮を続けるには、為政者の力だけでなく民に広く共感される文化の存在が不可欠だったのだろう。今も次の数百年に向けて近郊の山に樹木が育てられている。なんと遠大な文化意識だろうか。

企業のクラウド戦略策定における3つのポイント

さてITの世界に属していると否応なしに事業環境としてGAFAを意識し、海外でビジネスの可能性を探ることになる。海外のグローバル企業の企画担当役員と会話をしていると、何事を議論するときも、常に「未来」と「世界」を前提にしていると強く感じる。未来はGAFAの投資によって実現する世界共通のプラットフォーム上に存在しているからだ。以下、クラウドを前提にした戦略策定について考察してみたい。

第一に、他者と同じ未来世界を共有することである。なぜなら企業が単独で生き残るには投資がスケールしないからだ。ここで重要なのは、互いの戦略適合性だけではなく、ビジョンや文化の適合性だ。数十万人や100億ドルの事業エンティティを戦略だけで統合することは無理がある。目指すべきビジョンや「共感」できる文化を共有することが不可欠となる。サステナブルとはビジネスモデルや資本の規模で実現されるのではなく、ステークホルダーに「共感」されるビジョンやそれを体現する文化の支えが必要なのだ。
海外で自分は何であるのかを問われると、私は式年遷宮の話をするようにしている。相手の目に浮かぶ驚きを楽しみながら、日本文化の上に日本企業が存立している意味を自問することこそ、グローバルな共感を得ることではないかと感じるのだ。
第二に、クラウドに立ち向かう覚悟の形成である。最も重要なことはクラウド上のサービスを「はじめから壊れること、作り直すことを前提にする」であると考える(遷宮文化のわれわれならできるはず)。クラウドのメリットは、大規模なビジネスを行う際に大規模なITリソースを事前に準備しなくともリーンスタートが切れることにある。まるで電気を利用する感覚になるが、一方で電力会社のようなインフラ企業ではないクラウドプレーヤーは、サービスの安定性や継続性についての投資は行うが、その上に載るサービスについてまで保証をすることはない。
クラウド上にサービスを構築した場合に、自ら顧客情報保護、セキュリティ、コンプライアンスといった機能を継続的に顧客にサービスしようとする必要があり、これをクラウド上で実現するのは想定しているより驚くほどの莫大な維持管理コストが発生する。壊れてもサービス提供の責任がないのであれば構わないが、持続可能な(この定義が難しい。サービスの持続可能性をきちんと顧客に説明仕切ることがあらためて求められる)ビジネスを提供するには、日常の「有事の備え」と10年単位の「住み替え(クラウド移行)」に備えることができるのか問われることになる。プラットフォーム上でさまざまなサービスが提供されるようになるが、どの階層でどこまで自分たちが責任を持っていくのか、それが自社のブランドを保持するには必須になるはずだ。
第三に、「拡張型」の現実感覚を形成するということである。これまで企業間や個人と企業間は一定のフォーマットで情報を交換し、それを信用などのビジネスの基礎としてきた。ところが、プラットフォーム上にあらゆるデータが存在する時代には、目の前の企業や個人の先にある現実に立ち向かうことでビジネスが成立する。企業や個人とのデータ交換のプロトコル(仕様)のみが重要な時代ではない。この視点では統制社会での個人スコアリングなど話題になるが、建設的な視点でいえば気候データや土地や海域のデータを分析し、取引先のビジネスに対する提案組成を行うことが考えられる。顧客の先にあるビジネスを拡張する感覚を持っている企業こそ、ステークホルダーからの信頼と共感を勝ち得ることができ、結果としての収益の拡大が実現される。ここで重要なのはテクノロジーが社会正義の側に立つことが求められることだ。欲望のみの追求は継続的な存在になり得ないからだ。

自身の文化の再考が日本企業のクラウド戦略につながる

私事であるが、「神在月」に生まれてその地方で生活していた。その地方では神様は多くの行事の中で身近なものであり、八重垣さん、稲荷さんというように「様」でなく「さん」付けで呼ばれていた。絶対神でなく生活に宿る神。
われわれの文化意識を再考することがグローバルでクラウドネイティブな時代を生き抜くのに必要なものではないだろうか。

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