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日本企業らしいDXとは

強い「現場力」のデジタル移植

常務執行役員 産業ITイノベーション事業本部長 嵯峨野 文彦

#DX

2020/07/15

欧米や中国企業と比較して遅れが指摘されていたデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが、日本企業にも浸透しつつある。2019年中に実施された各種調査結果を見ると、概ね5〜7割の企業がDXについての取り組みを実施済み、あるいは実施中という回答をしている。
しかし、DX研究の第一人者であるスイスのビジネススクール、国際経営開発研究所(IMD)のマイケル・ウェイド教授は、世界のDXの状況を概観して、「われわれのデータによればDXが失敗する確率は95%。(中略)その理由は管理するものの数が増え、それぞれが関連し合い、そのどれもが変化しているからだ」と語り、DX成功のハードルが高いことを指摘した。

経営者の思いと優れた「現場力」でDXを成功させる

日頃、日本企業のDXを支援しているわれわれとしては、こうした指摘をもっともだと思う一方で、別の見方もしている。日本の各種産業、とりわけ製造業、物流業、流通・小売業などは、多くの「現場」を抱えている。そして、そもそも日本企業の競争力の源泉は、優れた「現場力」にある。トヨタ自動車を例に挙げるまでもなく、現場主導の「カイゼン」が企業の生産性や付加価値を高めている。分業された欧米型の現場では実現できそうもない、現場を熟知している人が組織内にいることから可能となる「日本企業らしいDX」があると思っている。
とりわけ物流業務や窓口業務など人手がかかる職場では、複雑なアナログ的現場ノウハウの集大成にデジタル技術を活用することで業務最適化が図られる。つまり、強い「現場力」をデジタル化して組織内に移植することが、日本企業にとってDX成功の第一歩なのである。
そうしたDXの成功事例を見てみよう。

熊本市に本社を置く平田機工という製造設備メーカーがあるが、ここは知る人ぞ知る「製造設備産業におけるプラットフォーマー」である。同社はIoTを活用して生産現場の各種データをきめ細かくモニタしており、そのデータに基づいて設計から部品製造、組立・検証、生産立ち上げまでの一貫生産を行うなど、ユーザーである製造業に継続的な製造設備サービスを提供し続ける製造ラインのシステムインテグレーターとしての存在感を高めている。しかし、単にIoTというデジタル技術を活用しただけで今日があるわけではなく、「生産現場を熟知したものづくり」「ものづくりを知り尽くした設計」の思想の下、これまで蓄積した「擦り合わせ技術」というアナログ的発想を十二分に活用することで、特定業界のエコシステム構築に成功したのだ。
大胆な業務改革や組織変革を伴うDXの旗を振るのはトップマネジメントの役割と言われるが、日本企業においては経営者の思いと現場力の組み合わせがDXを成功させる。そのためには、現場の力を信じて、現場の目線を上げるリーダーの存在も必要である。今から現場力をもう一度つけようとしても、人手不足時代に突入している現在、それはかなわない。デジタル技術で現場力を代替しなくてはならない時代が迫っている。現場力をデジタルに移植できるのは、現場に精通したリーダーが組織内に残っている今がラストチャンスなのかもしれない。

ポストコロナ時代のパラダイムシフトに即して業務フローを見直す

ところで、新型コロナウイルスの感染拡大は人やモノの移動に急ブレーキをかけ、世界経済に大きなダメージを与えているが、とりわけ日本企業は従来の企業パラダイムの大幅な修正を余儀なくされている。というのも、不用意に人と接触することが感染リスクを高めるため、消費者が買い物にせよサービスを受けるにせよ、可能な限り人と接触しないで済む方法を企業に求めるようになったからだ。身近なところで宅配便業界は、急遽置き配に切り替えたり、受け取り時の押印やサイン不要とするなど、業務フローの見直しを迫られた。
日本企業には、対面営業を通じてきめ細やかな顧客対応が実現できるというかたくなな信念があるように思われる。たとえば、自動車ディーラーが新車販売をしようとすると、顧客を何度もショールームに招待したり、営業担当者が顧客の自宅を訪問して商談したりと、対面の営業機会をできる限り増やそうとする。対して中国で消費者が自動車を買う際に、ディーラーと接点を持つのは契約のサインをする時だけである。それまでは、商品の探索からディーラー間の比較、ディーラーとの価格交渉などすべてネット上の手続きで済む。これからの時代、どちらの方が消費者に喜ばれるかは自明であろう。
営業現場でのきめ細やかな顧客対応が決して悪いのではない。しかし、これからはそれをデジタルで代替していくことが、人手不足時代への対応とも絡めて時代のトレンドであり、消費者ニーズにより合致したものになっていくだろう。優れた現場リーダーが在職しているうちに、優れた現場力を早急にデジタルに移植できるか。日本企業にとって時間との勝負になってきている。

  • 2019年9 月26日、東京都内で開催された「デジタルカンファレンス2019」での講演内容より

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