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木内登英の経済の潮流――「バイデン氏が引き継ぐトランプ政権の負の遺産」

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

木内 登英

時事解説

2020/11/12

11月3日に投票が実施された米国大統領選挙では、開票作業が大幅に遅れ、7日になってようやく民主党バイデン氏の当選が確実となりました。トランプ大統領はまだ敗北を認めず法廷闘争に持ち込む構えですが、バイデン氏の勝利が覆る可能性はもはやかなり小さい状況です。トランプ政権から引き継ぐ2つの負の遺産への対応を、バイデン新政権は迫られることになるでしょう。

米国社会の融和を目指す

トランプ政権の負の遺産の一つ目は、米国社会そして国際社会の分断という問題です。大統領選で当選を確実にしたバイデン氏は、米国時間7日夜に勝利を宣言する演説をおこないました。その中でバイデン氏は、「私は大統領として、分断でなく団結を目指すことを誓う」として、米国社会の分断克服を強く訴えました。ただしこれは、大統領候補の勝利宣言のいわば決まり文句です。
トランプ大統領も、2016年の前回大統領選挙の際の勝利宣言で、「米国民全体の大統領となる」と融和を約束していました。しかし実際には、この4年の間に米国社会の融和どころか分断を煽る言動の方が明らかに目立ったのです。トランプ政権の下で、米国社会の分断傾向がより強まり、固定化してしまった感があります。
バイデン氏は、米国社会の分断克服を目指していますが、有効な策は簡単には見いだせないでしょう。

米国第一主義から国際協調路線へ

トランプ大統領は、地球温暖化対策をめぐる国際的な枠組み「パリ協定」、「TPP(環太平洋経済連携協定)」協議、WHO(世界保健機関)等からの離脱を次々に決めました。これは国際協調路線に背を向けた米国第一主義の表れです。
他方でバイデン氏は、トランプ大統領が離脱・脱退をした国際協定・合意に復帰する考えを明言しています。これは、国際協調路線への回帰と言えるでしょう。貿易政策についても、トランプ大統領が追加関税率の引き上げを武器に中国との間で激しい貿易摩擦を引き起こしたのに対して、バイデン氏は引き上げられた追加関税率を元に戻す考えを示しています。
このように、バイデン政権が国際協調路線へ回帰することは、国際社会や世界経済の安定にも繋がることから、歓迎すべきことです。バイデン氏は演説の中で、「再び世界から尊敬される米国とする」とも述べています。
しかし、トランプ政権下で失われた国際社会での米国の信頼を取り戻すのは簡単ではなく、それには時間がかかるでしょう。米国第一主義は、この4年の間に、議会や国民の間に一定程度浸透した可能性もあります。
米国社会の分断とともに、国際社会の分断も、バイデン氏がトランプ政権から引き継ぐ負の遺産と言えるでしょう。

再燃する米国の双子の赤字問題

トランプ政権が残した2つ目の負の遺産は、米国財政の悪化、そして経常収支の悪化も含めた「双子の赤字」問題です。
トランプ政権が2017年に実施した大型減税、いわゆるトランプ減税や、軍事費を中心とする財政支出の増大等は、米国経済に大きなひずみを生み出してしまいました。それが「双子の赤字」の拡大です。1980年代に注目されたこの問題が、再燃してきているのです。
2020年度の連邦財政赤字は過去最大の3.1兆ドルに達し、GDP比では15%程度と第2次世界大戦時の20%台に迫っています。トランプ大統領は2017年の最初の予算教書で、経済成長の加速によって財政はバランスを取り戻し、連邦債務を圧縮できる、と説明していました。ところが景気拡大が長期化する中でも財政赤字は拡大を続け、政府債務はGDP比で上昇する一方でした。今年に入ってからはコロナ対策が加わり、財政環境は一段と悪化しました。
今春までの歴史的に低い失業率に表れているように、米国経済が供給制約に直面する中での財政拡張策の実施は、国内生産が追い付かない国内需要の増加を満たす形で輸入を急増させ、貿易赤字額は2016年の4,810億ドルから、2019年には5,770億ドルにまで増加しました。

市場の警鐘が本格的に鳴らされる前に対応を

双子の赤字の拡大は、米国の財政運営に対する信認、ドルに対する信認を損ね、金融市場では、悪い金利上昇、悪いドル安の潜在的なリスクを着実に高めているのではないかと思います。これは、この先の世界経済にとっても非常に大きな不安材料です。
1980年代のレーガン政権のもとでは、双子の赤字の拡大が、長期金利上昇や株価急落を引き起こし、またドル暴落の懸念を高めました。こうした市場の警告が鳴らされたことを受けて、政府はようやく財政再建に真剣に取り組むようになったのです。
双子の赤字問題は、今回の大統領選挙での争点とはなりませんでした。バイデン氏の政策構想の中でも、この問題への対応の優先順位は低くなっています。しかし金融市場が大きく混乱する形で市場の警鐘が本格的に鳴らされれば、それは世界経済にも大きな打撃となってしまいます。
バイデン氏は、それ以前の段階で財政再建に本格的に着手し、トランプ政権が残した双子の赤字問題への対応を進める必要があります。それは、国際社会における米国の責務とも言えるでしょう。
現在、勝利を手中に収めつつあるバイデン氏ですが、トランプ政権から引き継ぐこれら2つの深刻な負の遺産への対応は、まさに待ったなしの状況です。

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プロフィール

木内登英

エグゼクティブ・エコノミスト

木内 登英

経歴

1987年 野村総合研究所に入社
経済研究部・日本経済調査室に配属され、以降、エコノミストとして職歴を重ねる。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の政策委員会審議委員に就任。5年の任期の後、2017年より現職。
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株式会社野村総合研究所
コーポレートコミュニケーション部
E-mail: kouhou@nri.co.jp

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