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社会価値創造型企業への挑戦

執行役員 証券ソリューション事業本部 副本部長 山﨑 政明

#サステナビリティ

2020/12/18

百年に一度といわれるコロナ禍は、地球規模の課題となり、これまでの世界の潮流を一変させた。日本でも緊急事態宣言を発令し、経済性を度外視した自粛が行われた。しかし、自粛が長期化するにつれて経済の停滞が深刻な問題となった。ウイルス感染という社会問題を解決しつつ経済活動を継続させるかという「社会問題と経済活動の両立」が重要課題となっている。
企業においても、マイケル・ポーターらが提唱したCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)つまり、社会価値と経済価値の両立に取り組み始めた。社会の持続可能性を確保し、社会課題の解決を事業化する経営モデルへの変革が求められている。このような「社会価値創造型企業」でも特にBtoB(企業間取引)を主軸とする企業では、直接生活者らとかかわる機会が少ないため、社会への直接的な価値を見いだしにくいが、本稿では、BtoB企業であってもCSVを実現している事例を基に考えてみたい。

CSV活動の成功要因とは

この中で一つのトレンドであるデジタル技術を活用している欧米企業の例を取り挙げる。
インテル社は、技術を通じて学習を促進し、社会的経済的地位に関係なく幼児から大学生までの生徒が平等に教育を受けられる教育事業を推進している。セールスフォース社は、フォーチュン500社を対象に炭素会計報告書の簡素化を図る事業を展開している。SAS Institute社は、社会課題を扱う環境保護機関や多様な非営利団体などに向け、情報分析やテスト支援を事業として行っている。各社ともCSV関連売上が企業全体の5~10%に達しており、社会価値と経済価値を両立しつつあるといえる。
これらCSV活動を行っている調査対象企業群を精査し、参考となる成功要因を5点述べる。
第一に、経営は社会貢献の方向性をCSVイニシアチブとして社内外に具体的に示し、組織変革のための基盤を作った。第二に、従業員が社会貢献へ意識をより高められるよう、社会貢献の機会の提供など環境を整えた。第三に、経営としては活動基盤を用意はしたが、細部は現場に委ね、アイデアの創発や構想の具体化は全面的にボトムアップ方式を活用した。第四に、社会課題を取り扱う外部機関との連携を活用し、情報や能力不足を補った。第五に、中長期的な活動を想定し、投資の意思決定や進捗管理にはROI(投資収益率)など財務的な指標は用いず、新たな市場での知名度獲得などをKPI(業績評価指標)とした。

社会価値創造型企業への変革に向けて

CSV活動は新市場開拓や新サービスの創出である。この特性を踏まえ、日本で同様のCSV活動を推進する際の留意点を述べる。
第一に、社会価値創造には相当な期間を要する。自社が持つ既存のサービス・既存の市場を活用する場合で、成果が表れるまでに3~6年を要し、自社に実績のない領域を新たに指向した企業は5〜10年を要したという調査結果もあるため、経営上の覚悟が必要だ。
第二に、CSV活動はいわば無から有を生み出す取り組みであるため、アイデアやスキルを持つ異能人材の意図的な掛け合わせが必要であるという点だ。日本には企業にも、タテ社会特有のいわゆる同調圧力や均質性による限界があり、自由なアイデアの発想や、発言をためらう。また、途中参加した人材の地位が低かったり、専門性による実務能力の評価が正しく行われにくい場合がある。加えて、欧米人と異なり、外部にいる専門家などと自己責任で関係構築することを平素から行っていないため、外部を活用した価値創出が得意ではない。これらの点を補完するために、CSVチームは個々人の役割を明確にし、ロジカルに議論できるルール決めから始める。経営はチームを既存の序列に押し込めないことと、チーム内の求心力強化のために理念の浸透に腐心はしても、チームの意思決定を尊重し、ヨコの合意形成を促すことだ。
第三に試行錯誤が多い活動になるため、試みの失敗による減点はご法度であり、むしろ小さな成功を愛でること。成果までに期間もかかるため、通常と異なる評価体系を用意したい。

社会価値創造型企業への変革は、試行錯誤と忍耐を伴うが、その試練を乗り越えることで第二の創業ともいえる起業となろう。その過程で、従業員は社会につながる自身の役割に意義を見いだし、企業の将来への成長にかかわることができ、帰属意識も高まるという相乗効果が生じる。社会貢献という使命感を持った従業員こそが最大の経営資源となるのだ。
「私たちの株主は地球だ」という理念を念頭に置き、誰もが社会課題起業家のように活躍できる企業こそ、私が憧れる世界観である。
社会価値創造型企業では、従業員が会社の企業理念に共感し、誇りを持つ。企業は社会からの共感を得る。そして社会に貢献する企業は、品格を持った企業として、あらためてブランドを確立し、尊敬される存在となる。
社会価値創造型企業は、一過性のトレンドではなく、企業経営のスタイルとして、デファクトとなっていくであろう。

知的資産創造10月号 MESSAGE

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