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デジタル化と地方創生

代表取締役会長兼社長 此本 臣吾

#DX

#価値共創

2021/03/19

菅政権の誕生と同時に、デジタル化関連施策の検討が一気に加速している。世界電子政府ランキングトップ(2020年)のデンマークでは、2001年からデジタルIDの取得が義務化されており、電子的に行政手続きを行うデジタルポストと呼ばれるプラットフォームを国民の96%が利用している。同様に電子政府で先端を走るエストニアでも、15歳以上の国民はIDカードの取得が義務付けられている。筆者は、全国民がIDカード(マイナンバーカード)を持たない限り、効果的な電子政府は成立し得ないと考えている。日本国民の大半がマイナンバーカードを取得するようになれば、そのこと自体が菅政権の大きなレガシーとなるだろう。
野村総合研究所(NRI)では、2020年2月から9月にかけてマイナンバーカード取得のための社内キャンペーンを行い、9 月時点でマイナンバーカードを取得済か取得手続き中の社員は約5200人、国内単体社員の82%となった。金融機関からオンラインで送付される年末調整時の各種証明書を社員がマイナポータル経由で申告すれば、人事・総務部門の関連業務を大幅に削減できることを考えると、企業として社員のカード取得を促す意味は大きいと思う。

海外における行政の電子化による効率化の流れ

さて、北欧諸国が電子政府に熱心な背景には、人口が減少し公務員が不足しているため、広域に分布する都市に人手をかけて行政サービスを展開するにも限界があるという事情がある。数多くの優秀な公務員を擁する日本はやや事情が異なるが、将来の人口減少や過疎化の流れを考えると、行政マンパワーが不足する地方において行政サービスの電子化の必要性は高い。筆者が2019年に訪ねたエストニアの首都タリンは人口44万人だが、市政府の職員数は約1420人(2018年時点)。これに対して、ほぼ同規模、人口52万人の国内某県庁所在地の市役所の職員数は約3270人(同)であった。ほぼすべての行政手続きがオンライン化されているタリンでは市役所に訪れる市民もほとんどいないため、いわゆる受付のカウンターにいる職員はわずか数人である。
健康増進や防災などの住民サービスを高度化する点からも、行政サービスを電子化するメリットは大きい。前掲のエストニアでは、全国民が自分のポータルサイトを見れば生まれてから今までの病歴、投薬の履歴などをオンラインで確認することができる。X-Roadと呼ばれるブロックチェーン技術を活用したデータベース上に、国民にかかわるデータがオープン化されている。そこでは、国民はポータルサイトから自分のデータへのアクセス権を制御できるため、データが勝手に使われる心配は無用である。

日本の先進事例:鶴岡市で進むデジタル化の取り組み

日本全体で同様の仕組みをただちに導入することはできないだろうが、地方レベルでデータを活用して、それぞれの地域に即した独自の住民サービスを立ち上げることは可能である。たとえば、山形県鶴岡市は同市に立地する慶應義塾大学先端生命科学研究所と連携協定を締結し、「鶴岡みらい健康調査」を続けている。この調査は市から提供される市民の健康診断情報や市民へのアンケート調査、血液・尿などの分析結果、さらには遺伝子調査に基づき、生活習慣病の予防方法や早期発見の検査指標などを考案するもので、これらを通じて健康で長寿な地域づくりの実現を目指している。NRIは2019年12月に鶴岡市と連携活動にかかわる基本合意書を締結し、同市のデジタル化による構造改革推進の支援活動を行っている。2020年度は「SDGs未来都市」の選定を受け、防災DX、医療健康DX、教育DX、生活交通DXを官民連携の「産業イノベーション推進検討事業」として推進している。中でも先行している医療健康領域では、広域に医療機関が点在し、医療サービスの維持に苦労している現状から、国立がん研究センター東病院と荘内病院などが連携し、同センターの専門医が月に1回、荘内病院に来院して診察を行い、今後は同センター東病院と荘内病院をオンラインで結んでカンファレンスや診療を行うことも検討している。また、初診は病院で行い、その後はスマートフォンなどを活用したオンライン遠隔医療サービスの本格導入の検討も進められている。
行政の電子化は健康増進などの住民サービスの高度化に加えて、企業側のメリットも大きい。たとえば、北欧にベンチャー企業が集積している一因として、起業にかかわる手続きがオンライン化されていることによる起業コストの抑制が考えられる。日本の地方都市でもデジタル化を先駆けて進めれば、企業立地に魅力を感じた起業家を集めることができるだろう。
地方の拠点都市のデジタル化を推進して暮らしやすさや健康増進を進め、同時に、地域の産業イノベーション拠点としての起業の環境を整備する。このようなアプローチでその地方独自の地方創生モデルをつくることを、私たちは鶴岡市で挑戦している。データの共有や情報システムのアーキテクチャなどは日本共通の標準が必要かもしれないが、筆者はデジタル化によって地方が目指す構想は画一的なものではなく、それぞれの地方の個性に合わせたものであるべきと考える。地方のリーダーシップがますます問われていくこととなろう。

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