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木内登英の経済の潮流――「歴史的合意に近付くグローバル・デジタル課税」

金融ITイノベーション事業本部  エグゼクティブ・エコノミスト  木内 登英

木内 登英

時事解説

2021/07/09

OECD(経済協力開発機構)加盟国を含む130か国・地域は、7月1日に国際法人税制の改革で、大枠合意に達しました。それは2つの柱からなり、第1は巨大IT企業などが法人税率の低い国に子会社等を置くことで税逃れをすることを防ぐために課税を強化すること、第2は各国に共通する最低法人税率を新たに設けて、その水準を「少なくとも15%」とすることです。

歴史的な法人税改革に近付く

ただし、まだ完全合意に至った訳ではありません。交渉に参加した139か国・地域のうち、法人税率が低いアイルランド、ハンガリーなど9か国は、最低法人税率に反対しています。そのため、具体的な税率の水準はまだ決まっていません。
このように残された課題は少なくないとはいえ、最終合意に向けた機運は着実に高まっているように見えます。大枠合意の内容については、主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に報告された後、今年10月までに最終合意に至ることが目指されています。その後、参加国による多国間条約の締結や各国での国内法の改正を経て、2023年の導入が予定されています。
現在の国際法人課税制度は、製造業を主に念頭に置いて約100年も前に導入されたもの、かなり時代遅れと言えます。それは、本社、子会社、工場などの拠点がある国で課税されるのが原則です。しかし近年の多国籍企業、特に巨大IT企業は、タックスヘイブン(低課税地域)に形式的に拠点を置くことで節税をする一方、拠点がなく税金を支払わない多くの国で消費者にサービスを提供し、巨額の利益を上げてきました。

米国巨大IT企業を狙い撃ちに

今回合意された枠組みでは、新たに課税対象となる企業は、売上高200億ユーロ、利益率10%をそれぞれ超える企業となります。利益率が10%を超える部分の利益について20~30%の課税を行い、それをサービスが提供されている国に分配する仕組みです。OECDによると、合計で年1,000億ドル超の利益が課税対象になるといいます。
この条件を満たす企業は世界で計100社程度となる見通しで、米国の巨大IT企業を狙い撃ちするものと言えそうです。少なくとも、対象となるのはごく一部の大企業だけです。そのため、日本企業全体への影響は大きくないでしょう。
ただし条約発効から7年後には、各国の対応状況を評価した上で、売上高の基準を200億ユーロから100億ユーロへと引き下げ、対象が拡大される予定です。一方、中国などの意見を反映して、工場など実体がある投資への税軽減策については、最低法人税率の適用が除外される見通しです。

新型コロナウイルス問題とバイデン政権成立が合意の鍵に

多国籍企業の課税逃れを防ぐ国際的な議論は2012年に始まり、大きな進展がないまま10年近くの年月が費やされてきました。それが足もとで俄かに決着の方向に動き出した背景には、新型コロナウイルス問題の発生とバイデン米政権成立の2つがあるのではないかと思います。
新型コロナウイルス問題の発生によって、サービス業を中心に多くの企業が打撃を受ける一方、巣篭り消費などの恩恵から、巨大IT企業にはこの問題が逆に追い風となり、収益が拡大しました。こうした環境のもと、巨大IT企業に対する反発が世界的に一層強まり、課税強化に向けた機運を高めたという面があると思います。
さらに、コロナ対策で各国の財政環境が急激に悪化するなか、最低法人税率を導入して、法人税率の長い引き下げ競争に終止符を打つことは、法人税率の引き上げを通じてコロナ対策の財源を確保することにも道を開くものです。法人税率の引き下げによる消耗戦で、税収基盤を弱体化させてしまった多くの国が、米バイデン政権の最低法人税率導入の提案に賛成した、という側面もあります。

バイデン政権の大きな成果に

米トランプ前政権の下では、デジタル課税の導入を巡って米国と欧州諸国とが激しく対立していました。米国にとって巨大IT企業への課税強化は、米国政府の税収と米国企業の収益を減少させる、つまり国益を損ねるものでもあり、受け入れには抵抗があったのです。議論が平行線を辿る中、国際的な合意が成立するのを待たずに、英国やフランスは米国の巨大IT企業を主な標的にした独自のデジタル課税を導入しました。その結果、米国との間の対立は一層激化してしまいました。
ところが、企業に対する公正な課税を求めるとともに、国際協調を重視する民主党のバイデン政権が今年1月に成立したことが、問題打開への大きな転機となりました。バイデン政権が譲歩の姿勢を見せたことは、デジタル課税導入の大枠合意に向けた強い原動力となったのです。
新たな法人税改革では、巨大IT企業への課税強化でデメリットを受ける米国とメリットを受けるその他国との間の利害、最低法人税率の導入でデメリットを受けるタックスヘイブンを中心とする新興国とメリットを受ける先進国との間の利害を同時に調整することが求められました。巨大IT企業への課税強化と最低法人税率の導入を同時に議論したことが、こうした各国の複雑な利害関係を調整することに役立ったと思われます。
バイデン政権は、インフラ投資計画の財源として、米国内で法人税率の引き上げを目指しています。米国が自国の法人税率を引き上げても、最低法人税率の導入が世界で進めば、他国が法人税率をさらに引き下げることで、米国企業の競争力が低下し、米国企業の海外流出が加速する、といった事態を防ぐことができます。バイデン政権が最低法人税率の導入を世界に提案した背景には、そうした国内事情もあります。しかしそれでも、国際的な法人税改革を強く後押しした点は評価されるべきでしょう。
バイデン政権は同盟国とともに対中国包囲網を強化していることから、様々な分野において、中国やその他新興国と先進国との間で合意に至ることは一段と難しくなってきています。しかしそうした中、この国際的な法人税改革において両者が歴史的合意に向かっていることは、バイデン政権の大きな成果と言えるでしょう。

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プロフィール

木内登英

エグゼクティブ・エコノミスト

木内 登英

経歴

1987年 野村総合研究所に入社
経済研究部・日本経済調査室に配属され、以降、エコノミストとして職歴を重ねる。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の政策委員会審議委員に就任。5年の任期の後、2017年より現職。
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株式会社野村総合研究所
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E-mail: kouhou@nri.co.jp

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