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FRBのパウエル議長の議会証言-Tailwinds

2018/02/28

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はじめに

パウエル議長による今回の議会証言は、半期毎のMonetary Policy Reportに関する初の登板であっただけでなく、米国景気のモメンタムが強まる中で次回(3月)FOMC以降の政策運営に関するヒントが示されるとの期待により、市場の注目度が高かった訳である。

提出された声明文とMonetary Policy Reportに加えて、初日の下院金融サービス委員会での質疑(前半の1時間強)について、内容を検討したい。

金融経済の判断

声明文に示された景気判断は総じてポジティブな内容であった。雇用の広範な拡大と賃金上昇の加速の兆しを指摘した上で、消費の拡大と設備投資の回復、輸出の増加などによって昨年後半の実質GDP成長率が3%に加速したことを指摘した。物価についても、目標に対して低位で安定しているとしつつも、昨年中の下方圧力は一時的との見方を確認した。

金融面では、昨年中に大きく緩和したFinancial Conditionが(最近の株価調整により)やや引き締まったことを認めつつも、これが実体経済に大きな影響を与えることはないと評価した。これらの点に加え、拡張的な財政政策もあって、今年はインフレ率が加速し、賃金の上昇ペースも高まるとの見方を示した。

また、議会証言の中では、共和党のマロニー議員の質問に対する回答として、パウエル議長は12月FOMC以降に自らの景気見通しが強まるとともに、インフレ目標の達成についてより自信を深めたと説明した。

これらの評価の方向性自体は、1月FOMCの議事要旨と大きく変わるものではない。ただ、その後に公表された経済指標によって、景気拡大の頑健さに自信を深めたことが窺われるほか、物価の鍵となる賃金上昇について明確な見通しを示したことは注目される。同時に、イエレン議長体制の終盤での講演やFOMC議事要旨でしばしば見られた「低インフレの謎」に関する議論が大きく後退した点も注目される。

金融政策の判断

金融政策の運営に関しては、次回(3月)のFOMCが近づいていることもあり、声明文は具体的な言及を避けたほか、パウエル議長も上記のマロニー議員への回答として、FOMCメンバーはこの間の景気動向を踏まえた上で金融政策を判断するという説明に止めた。その一方で、声明文は、FOMCが景気過熱の回避とPCEインフレ率の持続的な2%目標の実現とのバランスをとるとした上で、過去に米国経済にとって逆風であった要因が今や追い風に転じたと指摘した。その内容としては、財政政策が拡張的になった点と外需がより堅調に推移するようになった点を挙げた。

これらを上記の金融経済情勢の判断と総合すれば、パウエル議長の下でのFOMCは、次回(3月)のFOMCで景気と物価に関する見通しを上方修正する可能性があり、それに伴って利上げのペースも高まるとの理解は合理的と考えられる。

もっとも、FFレートの先物に織り込まれた、2018年12月のFOMCまでに4回の利上げが行われる確率は、現時点でまだ3割程度であるようだ。今年の利上げが4回になると、SEPの改訂やパウエル議長の会見の行われるすべてのFOMCでの政策変更というのが最も自然な予想になる。しかし、米国市場では、共和党の苦戦が予想される中間選挙の直前の9月FOMCでの利上げに懐疑的な見方も根強いようだ。

政策ルール

議会証言は政治の場でもあるので多様なテーマが取り上げられる。例えば、今回の議会証言で興味深かったのは、税制改革に対する評価である。共和党議員の多くは米国経済に対する効果を強調したのに対し、ロイス議員のように同じ共和党ながら財政規律の低下に強い懸念を示す向きもみられた。

金融政策に関連するテーマとしては、政策ルールの適否が引続き取り上げられた。筆者が視聴した議会証言の中では、共和党のヘンサーリング委員長による冒頭説明での言及に止まったが、今回のMonetary Policy Reportが前回(7月)に続いてこの点に関する詳細なBOXを掲載したほか、声明文の最後のパラグラフもFOMCがこの課題に継続して取り組んでいることを説明している。

声明文の中で政策ルールの適否に言及すること自体は、イエレン前議長の下での前回(7月)の議会証言と同じである。ただし、前回は使用するデータの種類や尺度、政策ルールが考慮しない要素の意味合いについて慎重な配慮が必要として、機械的な適用はできないとの慎重なトーンが目立った。これに対し今回は、そうした慎重な配慮の必要性に言及しつつも、機械的適用への懸念に代えて、パウエル議長個人として政策ルールによる処方箋は有用と考えるという注目すべき表現が加えられた。

もちろん、この点だけをもってFOMCが近い将来に政策ルールを明示的に使用する可能性が高まったと考えるのは早計である。また、上記のBOXが示唆するように、政策ルールの多数の候補には、近年の実際の政策運営を比較的良好に再現できるものも存在するが、そうしたルールは、オリジナルのテイラー・ルールが有するシンプルさとわかりやすさの特性を失う傾向がみられる。

それでも、パウエル議長が従来よりも政策ルールに関心を示しているとすれば、それは今後の利上げにおいて生ずるであろう摩擦を念頭においているからかもしれない。

今年に3回であれ4回であれ利上げを行えば、政策金利は中立水準に近づき、金融政策の「正常化」というより、次第に「引き締め」の性格を帯びる。今回の声明文が強調するように生産性上昇が構造的に抑制されているのであれば、尚更にそうである。

その時点では、住宅ローンや消費者ローンの上昇を通じて家計への影響も顕在化するし、設備投資のコストも上昇する。もちろん、これはFOMCにとって所期の政策効果であるが、政治家には望ましい話ではない。今回の議会証言でも、ヘンサーリング委員長やバー議員のように共和党関係者はFRBによるバランスシートの縮小をむしろ早期に進めるよう主張するが、利上げの継続に明確な支持を示す議論は当然ながら聞かれなかった。

これらを展望すると、パウエル議長は利上げの継続を正当化するためには、できるだけ「副作用」を抑制した上で何らかの政策ルールを採用する方向で議会と妥協することも、将来のオプションとして視野に入れているのかもしれない。

執筆者情報

  • 井上哲也

    井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部
    シニアチーフリサーチャー

    金融デジタルビジネスリサーチ部 シニアチーフリサーチャー

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