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コラム 井上哲也のReview on Central Banking

ECBの6月政策理事会のAccounts-State contingent

2018/07/17

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はじめに

ECBは6月の政策理事会で、金融政策の「正常化」をさらに一歩進める決定を下した。そのこと自体は、会合直後の記者会見でドラギ総裁が説明したように全会一致であったが、足許の景気判断や政策運営の考え方の面では多少の議論もあったようだ。いつものように内容を検討したい。

金融経済情勢の判断

上記の記者会見でも議論になったように、景気に関しては第1四半期の景気指標の軟化が一時的と理解して良いか、基調判断には影響しないのかがポイントであった。

この点に関して、プラート理事は執行部の立場から、昨年後半に非常に高水準であった経済活動が鈍化した結果であるとの理解を示すとともに、輸出の減速や一時的かつ供給側の要因にも影響されたと説明した。加えて、4月の政策理事会以降に公表された指標も、企業部門のセンチメントを中心に予想対比で弱い点を認めつつも、下落幅は第1四半期より縮小し、かつそれらの水準は景気拡大の継続を引続き示唆すると指摘した。

政策理事会メンバーも、ユーロ圏の景気拡大は引続き広範かつ強力というParet理事の説明を概ね(generally)支持した。もっとも、多くの国で景気指標の悪化が第2四半期にも継続する結果、短期のダウンサイドリスクを高める可能性に対する警戒感も示されたが、この点には「中期の視点からの重要性は限定的だとしても」という注釈が付されている。

物価に関してプラート理事は、基調的インフレ率の加速に勢いはないが徐々に回復していると説明するとともに、労働市場の逼迫とともに賃金上昇圧力が強まり、昨年の大幅なユーロ高による波及効果も必ずしも明確でないといった好材料も指摘した。

政策理事会メンバーも、基調的インフレ率には国内のインフレ要因や賃金上昇による上昇圧力が働いているというプラート理事の説明を広範に(broad)支持した。また、6月のスタッフ見通しにおけるHICP総合インフレ率見通の上方修正が、主として原油価格の上昇を反映したものであることを確認した。

因みに後者に関しては、ユーロ圏企業の間で海外市場でのPTM的な行動が広がっているため、収益面の代償として、国内市場で輸入価格の下落に対して非弾力的(かつ非対称的)な対応をとっているとの仮説が、直近のEconomic Bulletinに示されている。

加えて、サーベイベースと市場ベースの双方から見て、インフレ期待も望ましい方向に動いており、かつ分布の収斂はデフレリスクに対する意識の低下を示唆するとの議論を行った。

なお、FOMCと同じく、ECBの政策理事会メンバーも通商摩擦の影響について議論したようだ。つまり、貿易問題での緊張関係の高まりが現実的になったと認めた上で、世界全体のセンチメントの後退を招くとの懸念を示した。もっとも、それがインフレに与える影響は不透明とし、高関税や貿易障壁は直接の対象となる財の価格に上昇圧力を加えるものの、輸出の低迷やセンチメントの悪化が需要減少を通じてインフレに低下圧力をもたらす可能性も指摘した。

金融面では、クーレ理事が執行部の立場として、国際金融市場のボラティリティの上昇に言及するとともに、ユーロ相場の年初来の反落について、相対的な景気局面の違いや株式市場のパフォーマンスの差、短期金利差の拡大等を背景にグローバルに生じているドル高による面が強いとの理解を示した。

政策判断

プラート理事は、先に見た情勢判断を踏まえて、インフレ目標の達成に関する三つのポイントを確認した。つまり、(1)インフレは目標に向かって収斂(convergence)しており、(2)インフレ期待の安定からみてそうした動きに自信(confidence)があり、(3)資産買入れを減少しても影響を受けない(resilient)と予想できるとした。

政策理事会メンバーも、景気の基調的な拡大とインフレ期待の安定の下で、今後のインフレについては上記の三つのポイントが確認できるというプラート理事の説明を広範に(widely)支持した。 これらの議論の結果として、政策理事会メンバーはプラート理事が提案した金融政策の変更を全会一致で決定した訳である。つまり、インフレが見通し通りに進むことを条件に、資産買入れは10月からは月額150億ユーロ増のペースに減速し、年末で買入れを停止するというものである。

同時に政策理事会メンバーは、金融緩和の維持がなお必要との理解を幅広く(widely)共有し、保有資産の再投資政策を長期にわたって継続すること、利上げ開始のタイミングを時間とインフレの動きの双方から条件付けることという意味で、フォワードガイダンスを明確化することも全会一致で決定した。

なお、ECBの政策理事会は政策運営に対するコミュニケーションの内容やトーンを標準化するよう予てから努力しており、今回も例外ではなかった。プラート理事は、ファンダメンタルズについて、(1)景気拡大の中期見通しは引続き幅広く強力である、(2)ユーロ圏のリスクバランスは引続き中立的であり、下方リスクは通商摩擦を含む海外にある、(3)インフレは上にみた三つのポイントをクリアーしている、といった点を強調すべきとした。

その上で、政策運営については、(1)9月までは現状ペースで資産買入れを継続する、(2)10月以降は月150億ユーロ増に減らし、年末で停止する、(3)資産買入れ終了後も長期にわたって再投資を維持する、(4)現状の政策金利を少なくとも来年夏まで維持する、(5)インフレ目標達成には金融緩和の維持が重要と確認する、(6)インフレ目標達成には全ての政策手段を必要に応じて活用する、といった内容を通じて適切なガイダンスを示すべきとした。

政策理事会メンバーも、資産買入れの減少・停止と必要な金融緩和の維持とを注意深く両立させることを目指したこうした方針で合意したようだ。

なお、政策金利に関するフォワードガイダンスについては、(時間だけでなく)インフレの動きに関連付けることによる”open-end”的な意味合いを出すことで、ECBの政策反応関数をより明確にアピールしうるとの議論も興味深い。この点は「正常化」の前進に伴う市場の反応の抑制を狙ったレトリックの一環である可能性も否定できない。それでも、最初の利上げを2019年秋以降に設定したことも考えると、上記のような海外発の下方リスクが顕在化した場合に、利上げが本当の意味でstate-contingentになりうる可能性を示唆していることも考えられる。

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