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ECBの9月政策理事会のAccount-Prominent Uncertainty

2018/10/15

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はじめに

前回(9月)の政策理事会の議事要旨(Account)は、執行部による景気や物価の見通しがメンバーの幅広い支持を受けたことを示している。ただし、景気の先行きに関するリスクについては、従来より慎重な意見があったことも示唆している。そうした懸念の焦点も含めて、いつものように内容を検討したい。

景気判断に関する議論

まず、プラート理事が執行部の立場から、2018年上期の実質GDP成長率の減速が、基本的には高めの成長であった昨年下期の反動によるとの見方を確認した。

また、需要項目からみると、減速の主因はユーロ圏外(特にアジア)との貿易にあるとする一方、内需は個人消費も設備投資も堅調さを維持しているとの理解を確認した。従って、執行部による経済成長率見通しが足許を中心に若干下方修正になったのも、本年上期の減速による寄与が大きいと説明した。

政策理事会メンバーもPraet理事の理解を概ね(generally)共有した。もっとも、海外経済は、安定的な拡大をメインシナリオとしつつも、貿易取引のモメンタムが低下している点を含め、不確実性がより明確になった(prominent)との考えを示した。

その上で、保護主義の台頭によるインパクトについて詳細に議論し、貿易に対する直接的な影響だけでなく、全般的なコンフィデンスの低下に懸念を示した。一方、こうした影響はこれまで顕現化しておらず、今後も大きな不確実性を伴うとの指摘も行った。

また、新興国経済の情勢による意味合いに関しても意見を交換し、為替レートの減価は予て経済問題を抱える一部国に限定されているとの理解を示した。また、世界経済の長年にわたる新興国依存に自然な調整が生じているとの理解や、ユーロ圏経済は既に内需依存にシフトしたとの見方を示した。

これらを踏まえて、政策理事会メンバーは、執行部の経済成長率見通しに概ね(generally)同意した。また、内需自体のresiliencyが高まっていることにも合意が見られた。

もっとも、ユーロ圏主要国の7月の工業生産の弱さには、海外発の要因による一時的とは言えない影響が窺われるように、ハードデータの一部が以前よりポジティブでないとの指摘があり、経済成長率見通しの下方修正を全て一時的要因によると整理することに疑問を投げかけた。

トルコリラの下落による影響も、同国との経済関係によって異なりうるとの指摘があるなど、政策理事会メンバーの間では執行部に比べて先行きのリスクに関して慎重な見方も目立った。

物価判断に関する議論

プラート理事は執行部の立場から、足許のコアインフレ率はなお低位であるものの、生産者物価やサービス価格が上昇している点を指摘し、国内のインフレ圧力は徐々に高まるとの見方を確認した。また、執行部による新たなインフレ率見通しも、一見すると横ばいの印象を与えるが、その背後では原油価格の上昇に徐々に歯止めがかかる一方、基調的なインフレ率が加速するとの理解を説明した。

これに対して政策理事会メンバーは、プラート理事の説明や執行部の見通しに幅広く(broadly)合意した。また、賃金についても、特に景気循環がより成熟している国々では、交渉賃金や雇用者報酬(一人当り、および時間当り)といった指標が上昇している点を指摘した。ただし、こうした賃金上昇が物価上昇にまで波及するには不確実性と時間的ラグが残る点にも留意するとともに、資本設備の稼働率上昇による生産性向上が物価上昇を抑制する可能性にも言及した。

加えて、保護主義の拡大による物価への影響については、 supply sideでコスト上昇を招く一方、コンフィデンスの悪化が大きければdemand sideから物価を押し下げるとの理解を示すとともに、前者の問題を回避するための貿易ルートの変更も含めて不確実性が大きいため、どちらの要因が支配的になるかは事前には不透明であるとした。

政策運営に関する議論

プラート理事は、ユーロ圏経済が2019年にかけて潜在成長率を上回るペースで拡大するとの見方を確認し、その下で6月の政策理事会で決定したように、10月以降は資産買い入れのペースを減速し、年末でネットの買入れを停止する方針を確認した。

また、政策理事会メンバーによる対外発信について、①経済指標はユーロ圏経済の幅広い拡大を示唆する点を強調すべき、②世界経済のリスクは上下にバランスしているが、保護主義の脅威や新興国経済の脆弱性を認めるべき、③ECBがインフレ率の目標への収斂に自信を強め、従って資産買入れの減速が可能である点を強調すべき、④こうした収斂を持続的な動きにするには、保有資産の再投資によるstock effectや利上げに関するフォワードガイダンス等の対応がなお必要である点を確認すべき、といった線で行うよう求めた。

これに対し政策理事会メンバーは、6月の政策判断の妥当性を全会一致で確認するとともに、ユーロ相場(EER)の増価に拘わらず、financial conditionが依然として緩和的であると評価した。また、こうした政策判断は、ECBとしての経済指標に基づく(data-driven)アプローチと整合的であるとし、市場にも円滑に受け入れられているとの見方が広く(widely)共有された。

併せて、対外発信に関する上記の方針にも幅広く(widely)合意し、新たに顕在化してきた様々なリスクを考慮しても、現時点ではユーロ圏経済全体のリスクは上下双方向にバランスしているとの見方を強調すべきであるとした。

財政政策に関する議論

なお、政策理事会メンバーは、ユーロ圏の主要国に展望される拡張的な財政運営が域内の経済成長率にとってプラスになる可能性を指摘する一方、pro-cyclicalな財政運営は経済の頑健性を低下させるとして、景気が拡大しているうちに財政面のバッファーを構築すべきとも指摘している。

また、9月の政策理事会の時点ではイタリア国債の利回りには既に上昇圧力がかかっていたが、クーレ理事は、金融市場に関する執行部説明の中で、現時点では他国への波及がほとんど見られない点を確認した。

執筆者情報

  • 井上哲也

    井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部
    シニアチーフリサーチャー

    金融デジタルビジネスリサーチ部 シニアチーフリサーチャー

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