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トランプの農業支援は中間選挙対策になるか

2018/07/26

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トランプは120億ドルの農業支援策を発表

トランプ政権は7月24日、全米農家に対して最大で120億ドルを支払う支援策を突然発表した。米国における農業の中心地である中西部州は2016年の大統領選挙でトランプを支持した、トランプにとってはいわば大票田である。しかし一方で、トランプ政権が乱発している追加関税措置の大きな被害者となっているのも、実はこの中西部の農業州だ。

トランプ政権が導入した中国製品への追加関税に対する中国の報復措置や、鉄鋼・アルミニウム関税の導入に対して欧州連合(EU)、カナダ、メキシコがとった米国への制裁関税は、米国産の大豆などの農産品、乳製品、肉などを標的にしている。これが中西部の農家に大きな打撃を与えているのである。その結果、中西部の農家の間ではトランプ政権の貿易政策に対する不満が次第に強まっており、11月の中間選挙や2020年の大統領選挙を視野に入れれば、トランプ政権にとっては看過できない事態となってきている。

トランプ流のやり方

米農務省によると、報復関税の影響は約110億ドルに及ぶという。これを補うものとして、今回の支援策の120億ドルという規模が決まったのであろう。農務省の計算の根拠は明らかではないが、約110億ドルは、報復関税によって全米の農家が失う1年間の所得の推定額と考えられる。その場合、この規模の一時金で賄うことができるのは1年間の損失に過ぎず、報復関税がさらに長引いた際にはその損失を賄うことはできない。

ミズーリ州農業会のトップ、ブレーク・ハースト氏は、米政権の貿易政策が変わらない限り、農業は引き続き打撃を受けることになると強調し、関税や貿易戦争が当面続くという前提ならば、支援策としては全く不十分だ、と述べたという。

これほどの規模での農家への直接補償は前例がないと言われているが、その支援の手続きもまさにトランプ流だ。パーデュー農務長官は、この支援の資金は、ニューディール時代に作られた農務省の農産物信用公社(CCC)から調達するとし、議会承認は必要とならないと説明している。ただし農産物信用公社は、農産物の価格が低下して農家が打撃を受けた場合に、農家への融資や直接支援を行うことが本来期待されている機能、権限であり、報復関税対策でその資金を使うのは制度の主旨に照らせば問題があるだろう。正規の予算措置であれば議会承認が必要であるが、それを回避して、ごり押し的に大統領の権限でこうした措置を決めたのは、まさにトランプ流と言える。

共和党内からも批判的な意見が

一方、共和党内ではこうした政策に対する意見は分かれており、批判的な意見も少なくない。共和党が伝統的に反対してきた「大きな政府」の政策だとする批判もある。またケンタッキー州選出のランド・ポール上院議員は、関税は米国の消費者と生産者を痛めつける税金だとして、支援金ではなく関税を撤廃することが解決に繋がると主張している。

このように共和党内でも意見が割れている点も踏まえると、今回の農家への支援策が果たして中間選挙で共和党に有利に働くものかどうかは不確実である。トランプ政権の貿易政策がもたらす将来にわたる打撃について、農家の強い不安はこうした場当たり的な弥縫策では解消されないだろう。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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