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2回目の指値オペ実施を余儀なくされた日本銀行

2018/07/27

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初の月2回の指値オペ

日本銀行は7月27日、0.10%の水準で10年国債を無制限に買入れる指値オペを実施した。今週23日にも指値オペを実施したが、それによって日本銀行が30、31日の次回政策決定会合でイールドカーブ・コントロールの事実上の変動レンジの拡大や、10年利回りの目標値の引上げ等を実施するのでは、という市場の観測を抑え込むことができず、事実上の変動レンジの上限としてきた0.1%を上回る水準まで利回りが上昇してきたことへの対応措置だ。

また、利回り水準を前回までの0.11%ではなく0.10%とした点に、事実上の変動レンジの上限は変わらないという、より強いメッセージが込められた。

買入れ覚悟で利回り上昇阻止に強い意志を示した

23日のように10年利回りが0.1%に接近するなか、0.11%と市場実勢よりも高い利回り、つまり安い価格で日本銀行が買入れのオファーをしても、市場参加者のほとんどはそれに応じることはなく、結局、日本銀行は10年国債を買入れる必要がない。この場合の政策は実弾なしのシグナルだけである。

しかし本日のように10年利回りが0.1%に達し、またそれを上回るなかで0.10%の利回り水準で指値オペを実施すれば、相応規模で札が入り、日本銀行は10年国債を買入れなくてはならなくなる覚悟をする必要がある。日本銀行は、国債市場の流動性低下などにも配慮して、国債買入れ増加ペースを縮小させるステルス・テーパリングを現在続けていることから、指値オペでの国債買入れは避けたいところだ。それにも関わらず、札が入ることを覚悟で0.10%の指値オペを実施したことは、そうした痛みを甘受しつつも、市場の観測を抑えたいとする強い意志を明確に示したものだ。

明確な政策変更は実施されないか

国債オペは政策決定会合の開催中は実施しないのが通常であることから、本日指値オペを実施しなければ、30、31日は利回り上昇を抑えるすべがない。10年国債利回りは、事実上の上限である0.1%を大きく上回る水準にまで達してしまうかもしれない。そうなればイールドカーブ・コントロールの信頼性は大幅に低下し、場合によっては崩壊してしまう可能性さえある。こうしたリスクを鑑みたがゆえに、痛みを甘受しつつ、現状のイールドカーブ・コントロールの枠組みを死守する姿勢を見せたのである。

筆者は、イールドカーブ・コントロールの目標を10年から5年へ短期化するのが望ましいと考えており、またそれが、日本銀行が次に見せる事実上の政策変更となることを引き続きメインシナリオと考えている。今回の決定会合ではそうした枠組み修正の可能性を匂わすメッセージが出される可能性もあるものの、実際には向こう数回の会合のなかで実施されていくものと現状では考えている。

変動許容レンジの拡大は現場が決めるもの

一方金融市場では、来週30、31日に、変動許容レンジの拡大、あるいは10年利回り目標の引き上げが実施されるとの観測も相応にある。しかしこの両者は、形式的には大きく異なるものだ。前者の変動許容レンジの拡大の場合、それは決定会合で決める案件ではない。現状でも政策決定会合で決められた現場(執行部)へのディレクティブ(指示)は「0%程度」に10年利回りを維持するだけである。現在の上下10bpの事実上の変動許容レンジは、指値オペなどを通じて現場が示したものである。指値オペの実施の有無やタイミング、また利回り水準も、完全に現場が決めるものだ。

従って、理屈上は、変動許容レンジの変更には決定会合での議決は全く必要なく、現場の判断だけで実施が可能である。しかし実際には、政策委員の了解のもとで実施されることになるだろう。その場合、決定会合の声明文に、イールドカーブ・コントロールは、「(流動性の低下など)国債市場の環境に配慮してより柔軟に行うことが望ましい」等といった文言を入れたうえで、現場が実施していくことになるのではないか。

しかしその場合でも、新たな変動許容レンジの上限は指値オペで示すしかない。その場合、市場がその上限を試す動きを見せ、日本銀行が指値オペで新たな上限を示すことで、初めて市場に理解されるものだ。そこに至るまでには、市場に不確実性は残り、市場のボラティリティは高まるだろう。

10年利回りの目標値の引き上げは決定会合の議決が必要

他方、10年利回りの目標値を引き上げる場合には、決定会合での議決が必要となり、それは会合終了後に正式に発表される。ただし、10年利回りの目標値を引き上げる場合には、「正常化」とは異なる「調整」であるとの説明は、より難しくなるだろう。その結果、為替市場なども含めた金融市場に与える影響も、現状ではより大きくなってしまうのではないか。こうした措置を仮にとるのであれば、日本銀行はもう少し地均しをしていても良いように感じられる。

こうした点から、仮に次回会合でどちらかの措置が講じられるのであれば、目標値引き上げよりも変動許容レンジの拡大の方が可能性はより大きいのかもしれない。ただし、変動許容レンジの拡大は、国債市場の流動性を回復させる、あるいはイールド・カーブのスティープ化を通じて金融機関の収益環境を改善させる、というメリットはあるものの、(短期間で2回の指値オペ実施を強いられた日本銀行が改めてその必要性を強く感じているであろうが)イールドカーブ・コントロールの安定性、持続性を高めることにはほぼ貢献しない。こうした点から、いずれの措置も現時点では実施されないことをメインシナリオと見ておきたい。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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