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ETF承認への思惑から大きく動いたビットコイン

2018/07/30

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ETF承認への期待からビットコインの価格は一時大幅上昇

年初から価格低迷を続けていたビットコインは、7月中旬からにわかに上昇傾向を強め、7月25日には一時1ビットコイン=8,470ドル程度と5月下旬以来の高値を付けた。円建てでみれば約2週間のうちに20万円以上の値上がりとなり、一時は100万円に達する勢いを見せたのである。しかし27日には一転してピーク比約600ドルの大幅下落となった。

ビットコインがこのように足もとで乱高下を見せた背景には、ビットコインETF(上場投資信託)開始への思惑があった。現在、ビットコインETFの承認を米証券取引委員会(SEC)に求めている取引所などは複数あるが、とりわけ注目されているのが、シカゴオプション取引所(CBOE)が申請しているビットコインETFだ。6月末に申請がなされ、早ければ8月10日前後に承認の是非が公表されると見込まれている。承認されればETFを通じてビットコインに新たに資金が流入するとの期待から、価格が大幅に上昇していた。

ビットコインETFの早期実現は困難との見方

しかしこうした期待に水を差し、ビットコインの価格下落を誘うきっかけとなったのは、米仮想通貨交換事業者大手ジェミニの創設者である、著名投資家のウィンクルボス兄弟が承認を求めていたビットコインETF「ウィンクルボス・ビットコイン・トラスト」について、SECが不承認を決めたことだ。ウィンクルボス兄弟の申請は2017年3月に一度却下されている。その後、SECの懸念に応えるように改善がなされたものの、SECはこれを再び却下した。

SECは声明で、仮想通貨の詐欺や価格操作などの不正行為を防ぎ、投資家を保護する機能が取引所に十分備わっていない、との懸念を示している。この判断を受けて、8月10日前後に公表が予想されているCBOEのビットコインETFについても、承認は認められないとの観測が強まり、ビットコインの価格下落に繋がった。

今回のSECの判断が、CBOEが申請するビットコインETFの承認の判断に直結する訳ではなく、承認の可能性は未だ残されている。しかし以前よりSECは、個人投資家の保護の観点からビットコインETF開始にはかなり慎重な姿勢であり、今回の「ウィンクルボス・ビットコイン・トラスト」の承認却下でそれが変わっていないことが明らかになったことから、CBOEの申請が認められる可能性は低下したと言えるだろう。

ビットコインETFに大きなニーズ

しかし時間はかかっても、強いニーズがあるビットコインETFが来年中など比較的近い将来に承認される可能性は比較的高いように思われる。そして、ビットコインETFが開始されれば、個人を中心に、新規の投資家の資金をビットコインに流入させることになろう。

ビットコインETFの主な魅力は3つある。第1に、世界的にETF市場が急速に拡大しており、個人投資家へのETFの認知度は大きく高まっている。こうした傾向のもと、新規に創設されるビットコインETFもビットコインそのものへの投資よりも安心な投資対象として、個人投資家の資金を呼び込みやすいだろう。第2に、ビットコインの価格は取引所によってばらつきが大きく、いわゆる「一物一価」が成立していない。ビットコインETFであれば、取引所間での価格の乖離というリスクを軽減することができる。第3に、ビットコインETFへの投資では、投資家がビットコインを実際に買わないことから、仮想通貨を保管する電子財布、ウォレットがハッキングに遭って、ビットコインを失ってしまうようなリスクがない。

この第3が、個人投資家にとってはビットコインETFの最大の魅力となるのではないか。ちょうど半年前に起きたコインチェック事件、つまり仮想通貨交換業者のコインチェックで約580億円分の仮想通貨「NEM(ネム)」が流出した事件は、まだ多くの人の記憶に残っているところだ。

ビットコインETFの功罪

金融当局の国際機関である金融活動作業部会(FATF)は、仮想通貨に関する国際基準の明確化を、次回20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が開かれる10月までに求めている模様である。

今後はFATFなどによる厳格なルール整備が国際的に進んでいき、それがいずれはSECによるビットコインETFの承認へと繋がっていくことになるのではないか。

ビットコインETFは、従来、仮想通貨に投資していなかった新たな個人投資家層の資金を呼び込むことになろう。ただしそうした投資家は、従来から仮想通貨に投資をしてきた個人と比べると、よりリスク回避傾向が強いのではないか。その場合、ビットコインの価格下落がビットコインETFの投げ売りなどを招き、価格下落が一層増幅される可能性が高まることも考えられる。一般にETFが抱えるリスクと同様であるが、同時に一方向へと投資行動が傾きやすい個人投資家の資金を、ビットコインETFを通じて仮想通貨市場に招き入れることは、ビットコインの価格変動をより大きくしてしまうリスクもあることも、覚悟する必要はあるのではないか。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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