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今年のジャクソンホールの読み方

2018/08/21

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パウエル議長の講演よりもメディア報道に注目

カンザスシティー連銀が主催する毎年夏の恒例である国際経済シンポジウム、通称ジャクソンホール・シンポジウムが、8月23日から3日間、米国ワイオミング州ジャクソンホールで開催される。24日にはパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の講演も予定されている。その演題は"Monetary Policy in a Changing Economy"だ。

昨年10月にFRBは保有資産の削減を開始し、また今年6月には欧州中央銀行(ECB)が本年末に資産買入れの増加を停止する方針を既に打ち出しているため、欧米での先行きの金融政策変更を予想するという観点から、今回のジャクソンホール・シンポジウムに金融市場が大きな関心を示しているという訳ではもはやないだろう。しかしFRBの金融政策、特に先行きの政策金利の引き上げペースは常に金融市場の関心事であり、それを占ううえで何らかの材料が示されるかどうかに市場は注目している。

FRBがジャクソンホール・シンポジウムという場を使って、先行きの金融政策に関するメッセージを市場に伝える必要がある場合には、それを議長の講演テキストに意図的に盛り込む。そうでない場合には、先行きの金融政策に関わる情報はテキストには一切盛り込まない。今回は後者となる可能性が高いだろう。

ところでジャクソンホール・シンポジウムは、チャタムハウスルール(Chatham House Rule)を守ることが、参加者に求められている。そのもとでは、参加者は会議中に得た情報を外部で自由に引用・公開することができるが、その発言者を特定する情報は伏せなければならない。しかし逆に言えば、発言者が特定できない形であれば、会議でどのような議論がなされたかについて参加者は対外的に発言できる。そのため、議論の概要については、参加者からのインタビューを通じて即座にメディアで報じられることになる。ここから金融市場は、FRBの金融政策に関わる情報を得ることもできる。

FRBがエマージング市場にどの程度配慮するか

短期的なFRBの金融政策への影響という観点から市場が最も注目しているのは、トランプ政権の貿易政策とトルコ・リラの暴落の2つではないか。ただしトランプ政権の貿易政策については、将来の米国経済や物価に対するリスクであるものの、現状で目立った影響は出ていないため、金融政策運営の観点からは将来の不確実性要因の一つとの位置づけだ。さらにFRBは政府の政策に直接言及するのを避ける傾向が強いことから、ジャクソンホール・シンポジウムでは、仮に他の参加者はこのテーマで積極的に議論することがあっても、FRB関係者は議論に加わらないだろう。

トルコ・リラの暴落については、FRBの金融引き締め策が原因との見方もあるが、それよりも、米国とトルコの政治的対立、エルドアン大統領の強権政治やその一端である金融政策への介入が主因と考える向きが、ジャクソンホール・シンポジウムの参加者の間では多いのではないか。そのため、FRBの金融政策との関連で大きな議論の対象とはならないだろう。

ただし、より一般的に、FRBの金融引き締め策がエマージング市場を混乱させ得ることをどのように評価し、それをFRBの金融政策にどのように反映すべきか、は大きなテーマであり、ジャクソンホール・シンポジウムでも議論の対象になるのではないか。どの中央銀行も、金融政策は自国の経済、物価、金融の安定を最優先して実施するものであることを強調する。例えば、FRBがエマージング市場に配慮した金融政策を行うと明言すれば、それはFRB法で定められている使命に反することになり、また金融政策の自由度が制限されてしまうためだ。しかし実際には、FRBはエマージング市場の動揺に一定の配慮をした政策運営をする可能性が高いだろう。そうしたFRBの本音の部分が、報道を通じてジャクソンホール・シンポジウムでの議論として伝わってくるかどうかが、最大の注目点となるのではないか。

今年のテーマは「変化する市場構造と金融政策への示唆」

より中長期的なFRBあるいは主要国の金融政策を占う上では、労働需給がひっ迫する中でも賃金、物価上昇率が目立って加速しない現状をどう考えるか、が重要だ。この点は、ジャクソンホール・シンポジウムの今年のテーマ、"Changing Market Structure and Implications for Monetary Policy(変化する市場構造と金融政策への示唆)"と関わるものだ。大規模なグローバル企業への集中が進み、競争条件が低下していることが、労働分配率の低下、賃金上昇率の低下、労働生産性上昇率の低下といった経済の構造変化の背景にあることが議論される模様だ。他方で、オンラインショッピングの広がりが、物価上昇率を抑制していることなども議論される。

ジャクソンホール・シンポジウムでは、このテーマに沿って多くのアカデミックなスピーチがなされ、そのスピーチのテキストやベースとなる論文も後にカンザスシティー連銀のサイトで公表される。しかしそこには、金融政策へのインプリケーションは多くは含まれないのが通例であることから、あくまでも金融市場にとっての材料は、メディアの報道を通じて提示されることになるだろう。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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