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自動車各社が中国で生産能力増強

2018/08/29

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中国は最後の成長市場

日本の自動車メーカーは、中国での生産能力増強に一気に動き始めた。トランプ政権は、海外メーカーを含めた米国内での自動車生産の拡大を狙って、自動車・自動車部品に対する最大25%の追加関税導入を検討しているが、日本の自動車メーカーは、むしろ中国での生産能力拡大を優先する判断を示したことになる。

2018年に中国における日系車の販売は500万台を超え、初めて日本国内市場を上回った。日系車の世界販売量のうち、既に約3割が中国市場だ。また、2018年の中国での新車販売全体は3,000万台に達し、米国での1,750万台前後を大きく引き離す見込みだ。米国を抜いて世界最大の自動車大国になった中国は、日本車メーカーにとって最後に残された成長市場と言える。

日本勢はVW、GMに続く3位グループを狙う

日産自動車は中国に新工場を建設するほか、商用車などの既存2拠点も増強して、2020年をめどに乗用車の年産能力を3割高める計画だ。総投資額は約1,000億円と見込んでいる。日産自動車の現在の中国での年産能力は160万台程度とみられ、今回の年50万台規模の生産設備の増強で、日本勢として初めて同200万台を超える。

ホンダは2019年に中国での自動車生産能力を約20%増強して、現在の108万台から132万台に引き上げる計画だ。

トヨタ自動車の現在の中国での生産能力は116万台だ。今後は天津と広州の合弁工場に約1,000億円を投入し、生産能力を各工場で約12万台ずつ引き上げる計画だ。

日本勢は独フォルクスワーゲン(VW)、米ゼネラル・モーターズ(GM)に続く3位グループを争っている。ただし、現地首位の独フォルクスワーゲンは2020年代半ばまでに生産能力の増強や電気自動車(EV)の開発などで1兆円規模を中国に投じる計画であり、日本勢は生産能力でさらに引き離される可能性がある。

中国でEV市場の開拓を進める

日本の自動車メーカーが中国での投資を拡大させる背景には、単純に市場拡大が見込まれるためだけではない。各メーカーは合弁先との提携などを通じて中国に電気自動車(EV)を投入し、これを足がかりにして世界最大のEV市場である中国市場の開拓を進めようとしている。

中国政府の強力な推進策の下で、中国のEV市場は急拡大している。乗用車販売に占めるEV比率は今年4-6期に4%近くまでに上昇した。これは、欧州の2.2%、米国の1.6%を上回っている。

一方、世界のEV市場に占める中国シェアは、17年時点で47%にまで拡大した。さらに今年は55%にまで高まると予測されている。また、中国では、2019年から自動車メーカーに一定比率の新エネルギー車(NEV)製造・販売を義務付ける「NEV規制」が導入される。このため、中国のEV市場の成長は加速することが見込まれている。

トヨタ自動車は2020年に、トヨタブランドのEVを現地生産する計画だ。ホンダは2018年に中国向けEVの販売を開始し、2025年までにEV20車種以上を中国に投入する計画だ。マツダは2019年に中国の大手自動車メーカーと共同開発したEVを発売するという。

自動車関連技術で中国がイノベーションの中心地に

日本の自動車メーカーが中国での生産を拡大する背景には、自動車関連技術で、中国がイノベーションの中心地となるとの見通しがあることもある。日産自動車の西川CEO(最高経営責任者)は、「中国はテクノロジーでも大国になる」と言う。次世代車の開発や自動運転など最先端分野で、中国が今後世界をリードすると見ているのだ。また、ホンダの八郷社長は、「中国には新技術を生み出す革新(イノベーション)パワーが満ちあふれており、ホンダにとって最も重要な市場だ」と述べている。

トランプ政権は、先端産業の技術を米国やそれ以外の国で盗んでいると中国を強く批判し、500億ドルの制裁関税を課した。しかし自動車関連分野では、中国がイノベーションの中心となる見通しがあり、日本の自動車メーカーはそれを吸収するためにも、現地での活動を拡大させようとしている。

ホンダは、コネクテッドカー分野で、アリババ集団傘下の地図情報を提供する企業・高徳軟件有限公司と提携して、多機能車載GPS(グローバル・ポジショニング・システム)の業務を展開している。また、自動運転分野では、画像認識システムを備えるニューベンチャー企業・商湯科技との共同研究を決定している。インターネット検索大手、百度が進める自動運転プロジェクト「アポロ計画」にも日本勢としていち早く参加を決めた。またトヨタ自動車や日産自動車は、中国ライドシェア最大手の滴滴出行が立ち上げたカーシェアリングの企業連合に参画している。

このように日本の自動車メーカーは、中国でのオペレーションを拡大させることで、中国でのイノベーションを吸収し、先端技術に乗り遅れないようにする狙いがある。

他方、現状では中国経済に減速感も見られ、また米中貿易戦争がさらに激化すれば、景気失速のリスクも高まる。より長い目でみれば政治的なリスクもあろう。そのなかで日本の各自動車メーカーが中国での投資拡大を一斉に決めたことは、まさに生き残りをかけた挑戦と言えるだろう。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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