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自民党総裁選で期待したい構造改革の議論

2018/09/04

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消費税率引き上げ後の社会保障制度改革の議論が重要

9月20日の自民党総裁選は、安倍首相と石破元幹事長との一騎打ちとなる。6年ぶりの総裁選実施となったものの、今のところ政策論争が大きく盛り上がる兆しを見せていない。経済政策面では、3選を目指す安倍首相が、過去のアベノミックスの成果を強くアピールしているのに対して、石破氏は、アベノミックスの成長戦略は大都市・大企業が中心であると指摘し、自らは地方や中小企業を原動力にした成長を目指すとしている。

社会保障について石破氏は、「高齢化にあわせてどこまで(消費税率が)上がるかわからないと、国民の不安感は解消できない」と強調し、また、「将来世代に負担を先送りしない」と主張している。さらに、2019年10月に予定する10%への消費税率引き上げ後の社会保障制度の姿を議論する国民会議を設置する、と表明している。社会保障制度改革に取り組む姿勢、消費税率引き上げ後の方向性をより積極的に議論する石破氏の姿勢は評価したい。安倍首相も、9月4日付の日本経済新聞のインタビューで、再選されれば、1年目には働き方改革の第2弾として、生涯現役世代に向けた雇用改革を断行した上で、次の2年で医療・年金など社会保障制度全般にわたる改革を実施するとしている。これは、消費税率引き上げ後に社会保障制度改革に取り組む姿勢を意味していよう。

ただし、両者ともに具体策は示されていない。また、「社会保障については子育てから年金まで一貫した制度作りに取り組む」とする石破氏の姿勢と、「社会保障制度を全世代型に転換する」としてきた安倍政権の姿勢との違いは分かりにくい。さらに、石破氏は、「社会保障の水準を下げることで社会保障制度を維持するというやり方は取らない」とも語っている。これは、社会保障制度改革は消費税率の引き上げによって進めていく考えのようにも聞こえるが、支出削減なくして社会保障制度をより持続可能なものに変えることが果たしてできるのだろうか。

アベノミックスのもとでの経済改善は何を意味するか

安倍首相は、自らの任期中にGDPがどれ程増加し、また有効求人倍率が地方も含めてどれほど上昇したかを挙げ、これをアベノミックスの成功を示す証拠と説明することが多い。しかし、これは現象面を説明したに過ぎず、政策と経済環境との関係は分析されていない。確かに、安倍政権下で労働需給は改善し、失業率は低下した。失業の心配をする人はかなり減少しただろう。

しかし、それにも関わらず経済環境が良くなったとの実感を持つ人は多くないのが現状ではないか。足もとの経済環境の改善は、金融・財政政策の効果よりも、世界経済の回復に助けられた面が強かったように思う。さらに、ここでいう経済環境の改善も、需要が増加したことを主に意味しており、この間、日本経済の潜在力が高まったという、経済の供給側の改善を示す証拠は乏しい。個人が、経済的な満足度を高めるためには、失業の心配がないだけでは十分でなく、先行きの生活水準がしっかりと改善していくとの見通しが重要だ。それには、生産性上昇率が向上することで実質賃金上昇率が高まっていくとの展望を持てることが必要だろう。これはまさに、日本経済の潜在力が高まることを意味している。

構造改革の在り方をしっかりと議論すべき

生産性上昇率や潜在成長率を高めるには、企業のイノベーションに加えて、政府の構造改革が欠かせない。この点から、安倍政権下でGDPがどれだけ増えたかではなく、構造改革がどれほど日本経済の潜在力を高めたかが、強く問われるべきだ。確かに構造改革は多く打ち出されたものの、日替わりメニューのように毎年テーマが変わっていては、企業がそれを十分に咀嚼するのが難しく、経済の潜在力向上に繋がりにくいのではないか。一つのテーマにもっとじっくりと取り組む姿勢の方が、より実効性を高めたのではないか。

石破氏は、安倍首相の下に設置された様々な会議体を改編し、経済政策の司令塔として「日本創生会議」を立ち上げることを提言している。これは、部分的には、既に述べたような安倍政権下での構造改革の問題点を意識した提言なのかもしれないが、もっと直接的に、構造改革の問題点を指摘して欲しい。

今回の自民党総裁選を、安倍政権下での経済政策、特に構造改革を総括し、問題点を洗い出す機会として欲しい。そのために、石破氏には、より議論を深めていく努力を是非期待したいところだ。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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