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米巨大テクノロジー企業に規制強化の波

2018/09/10

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米巨大テクノロジー企業に政治的偏向の疑念

8月2日に株式時価総額が1兆ドルを超えたアップルを追うかのように、9月4日には、取引時間中にアマゾンの株式時価総額が1兆ドルを上回った。グーグルを保有するアルファベットの株式時価総額も9,000億ドル程度と、1兆ドル超を視野に入れている。ところが、米巨大テクノロジー企業の活況を示す記念すべきこの日のまさに翌日、彼らが米政府からの干渉を強く受け始めるきっかけとなるかもしれない出来事があった。それは、5日に開かれたツイッターとフェイスブックの経営幹部に対する議会公聴会だ。

ソーシャルメディアやネット検索エンジンの政治的偏向についての議論が活発化する中、今回の証言は、テクノロジー企業のコンテンツ監視の方法について共和党議員から懸念が示されたことを受けて行われたものだ。ちなみに、アルファベット傘下のグーグルは、同社トップによる証言を拒否した。

トランプ大統領はその直前に、グーグルのネット検索サービスについて、政権寄りの保守派の見解よりも、政権に批判的な記事を優先的に表示していると批判した。グーグルはこれを否定している。

企業側は政治的な中立を改めて強調

公聴会では、両社ともに自社のビジネスが政治的に中立であることを改めて強調したが、議員からは、「ボット」と呼ばれる機械による自動投稿が世論工作に悪用されているとの懸念が示された。ワーナー上院議員は2016年の大統領選で、ボットが拡散した偽ニュースやデマが選挙結果に影響したとの議論があるとし、利用者は投稿が機械によるものかどうかを知る権利を持つのではないかと指摘した。それに対してツイッターのジャック・ドーシー最高経営責任者(CEO)は、投稿がボットによるものかどうかについて、ツイッターは識別可能と説明。利用者がボットによる投稿を判別できるよう、近く新機能として追加する考えを示した。

また、フェイスブックのシェリル・サンドバーグ最高執行責任者(COO)は、ロシアがソーシャルメディアを介して2016年の米大統領選に介入しようとした問題で、自社の対応が後手に回ったと不備を認め陳謝した。その上で同氏は、これまでに取った対応は、こうした介入を阻止するためにわれわれができることをすべてやるという決意を示している、と述べ、また、自社が偽コンテンツを突き止める手段をすでに向上させたほか、セキュリティなどを担当する社員が今では2万人以上にも上ることも説明した。

政府、議会対策を誤れば死活問題にも

今回の議会公聴会は、政府が米巨大テクノロジー企業への規制を本格的に強化していくきっかけとなる可能性がある。ラリー・クドロー国家経済会議(NEC)委員長は、政府が米巨大テクノロジー企業の調査を開始すると発言している。また、議会公聴会当日には、ソーシャルメディア大手各社が特定の見解を意図的に抑え込んでいないかかどうか、司法省が調査を始めると報じられた。

いずれの大手テクノロジー企業も、利用者のコンテンツを利用してビジネス化しているため、自らがコンテンツの内容をコントロールし、そこから政治色、党派色を取り除くことはできない。ただし、ヘイトスピーチにあたるとしてコンテンツを削除することを通じて、特定の党派色の強い意見を意図的に削除している、あるいは、グーグルの場合には、検索で表示されるサイトの序列や検索の際のキーワード補助機能を通じて、利用者を特定のサイトへと誘導しているとの疑念がすでに指摘されている。グーグルは、これらはアルゴリズムによって動かしていると説明しているが、実際には人為的な関与があるとの見方もある。今後はより詳細な説明を求められるだろう。

議会が特に問題視しているのは、コンテンツの監視体制だ。民主党議員の中でも、ソーシャルメディアが自主的にこの問題を解決できるか疑問だ、とする意見がある。今までは比較的規制されない環境のもとで、ビジネスを拡大し、独占的な地位を築いてきた米巨大テクノロジー企業は、にわかに政府、議会と対立する構図となってきた。11月の中間選挙を目前に控えて、政府、議会の対応は加速していくだろう。規制強化は企業にとって一層のコスト負担となることは避けられないが、単純にそれに抵抗すれば、政府から過度の規制を受けることにつながりかねない。また、それにとどまらず、利用者離れが加速してしまう死活問題へと発展しかねない。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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