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米中間選挙後の金融市場の注目

2018/11/07

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中間選挙後も変わらない米国第一主義と保護貿易主義

現地時間の11月6日に投開票が行われた米国中間選挙の結果は、本稿執筆時点(7日正午)では、未だ明らかになっていない。上院では事前予想通りに与党共和党が過半数を維持する可能性が高い一方、下院では両党が拮抗した状態が続いている。

年初からトランプ政権の保護貿易主義、中国との貿易戦争に振り回されてきた金融市場は、中間選挙さえ終えれば、トランプ政権の姿勢が軟化することを長らく期待してきた。そうした期待は、現在の金融市場に一定程度織り込まれているのだろう。

しかし、そうした期待は楽観的過ぎるのではないか。中間選挙後に米国の貿易政策が大きく修正されることは考えられない。最近、トランプ大統領が匂わせている中国との緊張緩和の可能性も、一時的な選挙対策の要素が強いだろう。

一方、選挙結果次第で、トランプ政権の税制・財政政策が影響を受けることは考えられた。例えば、選挙直前に打ち出した中間所得者向け減税策などは、民主党が仮に下院で過半数を占めれば、後退を強いられる可能性はあった。しかし、追加関税導入などの貿易面での強硬策は大統領の権限で実施できるため、中間選挙の結果にはそもそも大きく左右されないものだ。

さらに、金融市場あるいは米国以外の国にとって失望させられるものであったのは、外交面での米国第一主義や保護貿易主義の是非が、民主・共和両党間での選挙の大きな争点となっていなかったことだ。最大の争点は、移民政策と医療保険制度だった。多くの米国民が関心を持っているのは、まさにそうした国内問題だ。世界が注目する米中間選挙も、所詮米国の国政選挙であることを考えれば、それは当然だろう。従って、選挙結果いかんによって、民意を反映する形で米国の対外的な政策が大きく修正されるという可能性は、当初から小さかったのだと言えるだろう。

米国経済は依然堅調であるとはいえ、企業収益には先行き改善ペースの鈍化も見込まれるようになってきた。今後、貿易戦争の悪影響が米国経済や株式市場に及んでくれば、中間選挙の影響は受けないトランプ政権の貿易政策も、それをきっかけに軌道修正を迫られる可能性はあるだろう。

しかし、そこに至るまでには、相応に時間を要するのではないか。経済や株式市場に停滞感が広がれば、トランプ大統領は、それを、真っ先にFRB(米連邦準備制度理事会)の過度な金融引き締めのせいにするだろう。すでにスケープゴートは準備されているのだ。

日本を待ち受ける日米貿易交渉

米中間選挙が終わると、日本の金融市場で関心は、年明け早々にも始まる日米貿易交渉に移ろう。中間選挙の遊説中にトランプ大統領は何度も、日本の自動車に20%の関税をかける、との脅しを口にしていた。こうした発言を、選挙キャンペーン中の一時的な戯言と侮ってはいけないだろう。トランプ大統領は、選挙公約を確実に実現させることで、有権者からの支持を集めてきた面があることを忘れてはならない。

日米首脳同士の良好な個人関係があることから、トランプ政権は日本に対してはそれほど厳しい姿勢で貿易交渉に臨まないのではないか、と期待する向きもあるが、それは楽観的過ぎるのではないか。日米両国が貿易交渉開始で合意した9月の首脳会談後、日本政府が国民向けに伝える情報は、かなり楽観的な方向にバイアスがあるように感じられる。

実際には、年明け早々にもトランプ政権は、農産物、牛肉での関税率引き下げ、自動車の対米輸出の抑制などを日本に対して強く要請してくる可能性がある。また、貿易問題と通貨問題を連動させて、日本は金融政策を通じて不当に通貨切り下げを行っている、と強く批判する可能性もある。そうなれば、円高のリスクも高まるだろう。 2018年の米国の保護貿易主義から日本経済が受けてきた悪影響は、主として中国経済を通じたものだった。しかし2019年には、それに日米貿易交渉を通じた影響も加わってくるのである。経済の下振れリスクは高まっている。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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