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ネット無料サービスは岐路に

2018/11/20

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ネット無料サービスの源流

米国の株高傾向を強く牽引してきた巨大IT企業の株価に、足もとで調整色が広まってきた。それには、こうした企業のビジネスモデル、特にネットの無料サービスというモデルが岐路に立たされていることを反映している面があるのではないか。

グーグル、フェイスブック、ツイッターは、売上高の8割以上を広告収入で稼いでいる。広告活動が生み出す付加価値を高め、企業からより高い収入を得るためには、まず、その媒体となるサービスの利用者数を拡大させることが不可欠だ。さらに、効率の高い広告活動を実施するためには、利用者からの情報を収集することが重要で、それを通じて、個々の利用者ごとに最も効果的な広告を送ることが可能となる(ターゲット広告)。ネットの閲覧、検索、SNS、投稿動画などの各種サービスは、まさにこうしたビジネスモデルに適合しており、それゆえに、巨額の広告収入をベースに、利用者に無料でサービスを提供できる。さらに、利用者にコンテンツを作成、提供してもらい、それがさらなる利用者の拡大に繋がる、というのも革新的なビジネスモデルといえるだろう。

ただし、ネットビジネスでの無料サービスには、それとは異なるインターネット創世記に遡る事情もあるようだ。以下では、ウォールストリートの記事(注1)を参考に、これらの点を検討してみよう。2013年に「Who Owns the Future?(未来は誰のものか)」を執筆した、コンピューター科学者でインターネット創成期に関わったジャロン・ラニアー氏は、ネットの無料サービスはインターネット初期の社会主義的精神から生まれたという。理想主義的な創始者達は、インターネット上の情報は無料とすべきであり、企業は情報そのものではなく情報に関わるサービスから収入を上げるべきだ、と既に当時から議論していたという。

また、無料サービスが生まれた背景には、インターネット創世記の技術的な問題があったという指摘もある。エリック・ポズナー、グレン・ワイル両氏の共著「Radical Markets: Uprooting Capitalism and Democracy for a Just Society」によると、当時はインターネット上でごくわずかな料金を徴収する効率的な方法がなかったことが、無料サービスが生まれた背景の一つであったという。そして、1990年代には既に、利用者は無料でサービスを受けるのが当然と思うようになっていた、という。

模索が続く無料サービスのビジネスモデル

しかし、無料サービスというネットのビジネスモデルにとって大きな逆風となってきたのが、個人情報保護、ネットを通じた情報操作、フェイクニュースなどに対する規制強化の動きと人々の問題意識の高まりだ。

フェイスブックは、利用者が作成したコンテンツから個人情報を得て、それを広告ビジネスに活用している。グーグルもフェイスブックと同じ程度に、個人情報に依存した広告モデルを採用している。グーグルが収集するのは、利用者の検索履歴や位置情報だけではなく、傘下に持つユーチューブを通じて、利用者のメディアに関する嗜好なども追跡している。

当初は、ネットのコンテンツに関しては、投稿の場を提供する企業側の責任ではないというのが、フェイスブックなどの基本的な立場だったと思われる。しかし、批判が一気に高まるなかでは、個人情報の保護とともに、コンテンツのチェックにも多くのコストを割くことを強いられるようになってきた。しかし、これは、そもそも無料サービスというビジネスモデルのもとでは、当初想定されていなかった追加的なコストであり、企業の収益を圧迫する。それゆえに、将来の収益性に対する不安が、足もとでの巨大IT企業の株価下落に繋がっている面があるのではないか。

ネット企業に対する規制強化の動きや批判の高まりは、無料サービスというビジネスモデルに見直しを迫っている面がある。より良質なサービスを有料で提供する、というのがその一つの解決策だろう。すでに、アマゾン・プライムのような成功例もある。また、テレビ業界でも無料サービスが見直されてきた実例がある。ネットサービスと同様に、テレビ放送もかつては、多くの人に無料でコンテンツを届けるために、広告収入で運営する寡占事業だった。しかし、その後、質の高いコンテンツを提供することで視聴者から料金を徴収するという有料サービスをHBO(Home Box Office)が始めた。最近では、ネットフリックスなどのストリーミングサービスがある。

しかし、こうしたビジネスモデルが定着したとは未だ言えないのではないか。ネットフリックスは、高額な製作費を会員からの収入で十分に賄っていけることができるかどうか、まだ証明できていないだろう。

アップルは、ターゲット広告の活用のために個人情報を外部に提供するようなことはしていないと常に強調してきた。同社は利用者のプライバシーと利用者が閲覧するコンテンツの質を優先している。そこには大きなコストが掛っているが、それがアップルの高い端末の価格に反映されているとも言えるだろう。しかし、足もとでは、端末の割高感から売上が鈍化する傾向も見られ始めており、アップルのビジネスモデルが持続可能かどうかもなお不確実だ。

従来の巨大IT企業によるネット無料サービスは、このように大きな岐路に立たされているように見受けられる。それがどのような形で今後修正されていき、障害が克服されていくのかは、まだ十分に見えてこない。

(注1)"The Unintended Consequences of the ‘Free’ Internet", Greg Ip, Wall Street Journal, November 15, 2018

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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