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2回目の英EU離脱国民投票の可能性も

2018/12/05

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英EU離脱合意案の議会承認は厳しい情勢

英国議会の下院は、英EU(欧州連合)離脱合意案の審議を12月4日に始めた。5日間の審議を経て11日に採決が行われる予定だが、承認される見込みは全く立っていないのが現状だ。承認には、全650議席の下院で過半数の賛成が必要となるが、採決に参加しない議員を除くと可決に必要な議席数は320程度とされる。与党保守党の議席が315、保守党に閣外協力している民主統一党の議席が10議席あり、双方の議員がすべて賛成に回れば過半数に達する計算だ。

しかし、実際には、民主統一党は合意案に反対しているほか、保守党内でも100人程度が反対に回ると見られている。最大野党・労働党の一部議員が小数賛成に回っても、過半数には遠く及ばないのが現状だ。賛成は全議席のわずか3分の1程度にとどまる可能性があるだろう。

英EU離脱合意案への反対意見が多いのは、2020年末までの移行期間中に英領北アイルランドの国境問題が解決できない場合に、英国がEUルールに縛られる関税同盟に事実上残り続ける可能性がある(いわゆる「バックストップ条項」)、という合意案の規定だ。英国は、自らの判断でこれを停止することはできない。この規定に対して保守党内からは、「EUの属国になる」と批判が高まっている。また、この合意案は、「名ばかり離脱(Brexit in Name Only=BRINO)」とも呼ばれているという。

合意案が下院で否決される場合には、下院議長が合意案の修正を政府に義務付ける、という手続きがとられることが見込まれる。その場合、メイ首相はEUと再協議に入り、移行期間が終了する2020年12月までに修正案をまとめることを目指す。ただし、EU側は、英議会が今回合意案を否決しても、再交渉には応じないとの姿勢を強調しており、それを通じて英議会が再交渉を期待しないように働きかけている。これは、承認かあるいは無秩序な離脱(ハード・ブレグジット)のどちらかしかない、として議会に承認を迫るメイ首相と平仄を合わせたものだ。

金融市場がハード・ブレグジット回避を助ける可能性

仮に、英議会で合意案が承認される可能性があるとした場合、どのようなシナリオが考えられるのだろうか。一つの可能性だが、英議会での合意案否決を受けて、大幅なポンド安、株安が進むなど金融市場が混乱した場合に、その事態の収拾のために議員らが、最終的に賛成に傾くといったシナリオだ。一度否決されても、政府側は再度採決を求めることができる。そのため、2度目の採決で合意案が承認される可能性があるだろう。

あるいは、英議会での合意案否決後の金融市場の大きな混乱を受けて、現在は修正協議に否定的なEU側の姿勢が軟化し、英国政府との再協議を経て、修正案の発効に至る、とのシナリオも考えられる。両者の場合、金融市場の力が政治を動かすことになる。

英議会での合意案否決後のシナリオとして、もう一つ考えられるのは、英EU離脱の是非を問う国民投票を、再度実施することだ。調査会社ユーガブが11月に発表した世論調査によれば、離脱合意案に反対との回答は全体の42%、賛成は19%、分からないとの回答は39%だった。再度国民投票が実施されれば、EU残留の意見が過半数となる可能性もあるだろう。ただし、問題は、国民投票を実施するには4か月以上かかるとされ、その場合、来年3月29日の離脱日に間に合わせるのはかなり難しい、ということだ。また、その離脱日を延期するには、EUの全会一致での承認が必要という、高いハードルがある。

ところで、英タイムズ紙は11月30日に、EU側が「合意なき離脱(ハード・ブレグジット)」回避のため、離脱日を約3か月延期する案を準備している、と報じている。同紙によると、英国が2度目の国民投票を実施すること、あるいはノルウェーのようにEU単一市場に参加する枠組みに所属してから離脱できるようにすることを助けるため、としている。

この報道が正しいとすれば、EU側も「合意なき離脱(ハード・ブレグジット)」のリスクを強く警戒しており、それを回避するためには、最終的には譲歩を示す可能性があることを示唆しているのではないか。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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