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コラム 井上哲也のReview on Central Banking

FRBのパウエル議長の記者会見-Cross current

2019/01/31

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はじめに

FRBによる今回(1月)のFOMCは、予想通りに金融政策の現状維持を決定しただけでなく、今後の政策運営に関して従来以上に慎重なスタンスを示唆した。市場から注目されていたバランスシート縮小に関する考え方も含めて内容を検討したい。

金融経済情勢の評価

実は、パウエル議長は記者会見の冒頭説明で、2019年の米国経済が昨年よりは減速するものの、引続き堅調なペースで拡大するとの見方を確認した。足許の経済活動についても、声明文の第1パラグラフの表現は(後述するインフレ期待を除いて)前回(12月)から全く変わっていない。

一方でパウエル議長は、同じ冒頭説明の中で、米国経済の先行きに対する不確実性が高まっていることも確認し、①中国と欧州の景気減速、②米国(政府機関閉鎖)や英国(Brexit)での政治の不安定性上昇、③金融市場の不安定化、④経済主体のセンチメントの低下、といった要素を挙げた。

つまり、FOMCとして米国経済に関するメインシナリオを大きく変更したわけではないが、先行きのリスクが高まったと認識したと説明し、両者の乖離を「cross current」という表現を多用しながら強調した。

その上で、政策運営に直接的な関係を有するデュアルマンデートのうちインフレに関しては、声明文で市場のインフレ期待が低下したことに言及した。加えて、パウエル議長は冒頭説明の中で、原油価格の動向もあって上方リスクが低下したことを指摘したほか、記者との質疑応答でもインフレ圧力の低下を再三強調した。

金融政策の運営

金融政策の現状維持を決定した背景について、声明文の第2パラグラフ(前半)は、FOMCとして、経済活動の持続的拡大、強い労働市場、2%近傍のインフレが最も蓋然性が高い(most likely outcome)との見方を示している。つまり、現状の政策金利はデュアルマンデートの達成の維持に最適との判断を示唆している。

そして、第2パラグラフの後半では、こうした状況の維持に最適な政策金利を判断する際、FOMCは今後「忍耐強く(patience)」なるとの考え方を明示し、その背景として先に見たグローバルな金融経済情勢や米国内のインフレ圧力の弱さを指摘した。さらにパウエル議長は、冒頭説明の中で金融政策の運営について「様子見(wait and see stance)」とも表現した。

質疑応答では、多くの記者が今後の政策金利の運営を取り上げ、次の政策変更の条件、中立金利との関係等について質問した。

これに対しパウエル議長は、政策運営は新たな経済指標とそれが示唆する実体経済の先行き見通しに即して決定すること(data dependent)を確認しつつ、現状の政策金利が最適と判断している点を再三強調した。一方、中立金利との関係に関しては、現状の政策金利はFOMCメンバーによる「長期」の政策金利の推計レンジ内にあるが、中立金利は経済指標の動きによって事後的に把握される性質のものであるとの慎重な考えを示した。

また、多くの記者からは、パウエル議長の発言が、前回(12月)のFOMC直後と年初来では大きく変化したことの背景に関する質問や、こうしたトーンの変化によって金融市場が大きく反転したこと(いわゆるPowell Put)の評価に関する質問も示された。

前者に関してパウエル議長は、先に見たように米国経済のメインシナリオには大きな変化がないが、この間に海外要因を中心に不確実性が高まった点を指摘した。

後者に関しては、金融市場の不安定化に伴う金融環境(financial condition)のタイト化を注視している点を認めつつも、株価対策との見方を意識してか、特定の市場ではなく金利やリスクプレミアム、為替や株価など広範な指標をもとに判断している点も併せて強調した。加えて、金融環境の変化が持続した場合には経済活動に影響をもつため重要との理解を示し、金融政策が短期的な動きに対応する訳ではないとの考えも確認した。

バランスシートの縮小方針

パウエル議長の政策運営に関する発言の変化については、バランスシートの縮小方針の柔軟化を示唆したことも注目を集めていた(論点は、ロイターに執筆した 拙稿(1月30日配信))をご参照下さい。

今回(1月)のFOMCはこの点について別途の声明文を公表した。加えて、冒頭説明の中でパウエル議長は、議事要旨から明らかなように過去数回のFOMCで議論を重ねてきたことを確認しつつ、声明文のポイントは、①FFレートの誘導を主たる政策手段とする、②その下で流動性供給をactiveに運営する必要はない、③金融緩和のために必要な場合は、バランスシートの規模や構成も含むあらゆる手段を活用する用意がある、といった点であり、基本的に2017年6月の方針を確認したものと説明した。

その上でパウエル議長は、金融機関による当座預金需要やデュアルマンデートに照らしたバランスシートの最適な規模について、今後のFOMCでさらに議論し、考えを明らかにすると説明した。

質疑応答では、多くの記者が最終的な着地の規模について質問した。パウエル議長は特定の水準に言及しなかったが、金融機関による当座預金需要が予て想定されていたより強いとの理解を確認し、市場関係者による推計はこうした状況と整合的であるとして、従来よりも大きな規模での着地を示唆した。

また、金融機関が当座預金に対する需要を強めているのは、流動性比率規制のような金融規制への対応による面が強く、それ自体は合理的な行動との理解を示したほか、需要の強さは(机上の推計でなく)market intelligenceなどによって把握するとした。

なお、一部の記者がバランスシートの最終的な構成(債券の種類や年限)についても質したのに対し、パウエル議長は政策的に重要な意味を持つとした上で、FOMCでは結論が出ていないが、近いうち(fairly soon)に考えを纏めると述べた。

このように今回(1月)のFOMCでは新たな結論は得られなかったが、バランスシートの運営の考え方をより明確に示すことの必要性はFOMC内で共有されており、議論の結果が公表されるタイミングもそう遠くない印象を受けた。

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