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コラム 井上哲也のReview on Central Banking

日銀の黒田総裁の記者会見-政策効果のspillover

2019/03/18

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はじめに

今回(3月)の金融政策決定会合(MPM)は、金融緩和の現状維持を決定した。また、声明文の中で足許の輸出と生産の弱さを認めたものの、海外経済も年後半には回復軌道に服するとして、わが国経済の先行きに関する前向きな見方を維持した。

経済の評価

冒頭にみたように、今回(3月)のMPMは、足許の輸出や生産に関する指標の弱さを率直に反映して、声明文にもその旨を明記した。一方で、より長い目で見れば、景気拡大のモメンタムは失われていないとの評価を維持した。

記者会見ではこうした評価の妥当性に質問が集中した。これに対し黒田総裁は、技術的には景気動向指数の悪化は主として生産関連の指標の悪化を反映したものである点を説明した上で、海外経済の先行きについては、国際機関もポジティブな見方を維持していることを強調した。

つまり、足元で景気減速が目立つのは中国と欧州であり、このうち中国に関しては、既に政策当局が大規模な景気刺激策を発動しているので、その効果の顕現化が年央か年後半なのかは意見が分かれるとしても、いずれにせよ効果が発揮されるはずであるとの見方を示した。

加えて、米国経済は堅調に拡大しているとしたほか、中国以外の新興国の経済については、むしろ足許にかけて力強さを増しているとの見方を示した。その理由について黒田総裁は、FRBが利上げを一時中断することで、新興国からの資本流出懸念が後退し、新興国の政策当局にとって政策対応の柔軟性が高まっているとの理解を示した。

その上で黒田総裁は、わが国経済自身についても、雇用や所得、企業収益が引続き良好である下で、所得から支出への好循環が維持されるとの見方を確認し、これらは海外経済の足許の減速だけで脅かされることは無いとの理解を示唆した。

物価の評価

一方、今回(3月)の記者会見では、物価に関してはともに「季節もの」というべき二つの点に議論が集中した。

第一に、春闘における賃上げの評価である。各種の報道によれば、先行して決着している大手企業については、前年対比でみても小幅な上昇に止まるケースがみられる。これはまさに海外経済の先行きに関する不透明性が高まる中で、企業経営者のマインドが慎重化した結果として仕方ない面もあろうが、いずれにせよ、数名の記者が賃金上昇圧力の欠如を指摘した。

これに対し黒田総裁は、春闘はまだ途上にあり、現時点で評価を下すことは早計とした上で、仮に昇給が小幅に止まったとしても、例えば冬季賞与が高水準であったことなどを考慮すれば、労働者の所得は増加しているとの理解を示した。

第二に、「量的・質的金融緩和(QQE)」の開始から6年が経過したなかで、インフレ目標の達成に向けた貢献への評価である。実際問題として、前例の無い大規模な金融緩和の実施に関わらず、現在のCPI総合インフレ率は年率1%弱の上昇に止まっている。こうした質問は、毎年春に繰り返し提示されて来た訳である。

黒田総裁は、まず、2014年の中盤にはCPI総合インフレ率が1.5%近傍まで上昇したことを指摘するとともに、QQEの開始当時は-0.5%であった点を指摘し、政策による改善幅の大きさを強調した。その上で、その後にインフレ率が低迷した理由については、従来と同じく、原油価格の大幅な下落とインフレ期待の下方への不安定性の二点をあげた。

つまり、黒田総裁は、同じく原油価格の下落に直面した米欧では、原油価格の底打ちや反転とともにインフレ率が上昇したにも関わらず、日本ではそうした動きが限定的であった理由は、インフレ期待が実際のインフレ率につれて低下しやすい点にあったと説明した。そして、黒田総裁は、長期に亘る低インフレの結果、インフレ期待を2%にアンカーすることは難しいと指摘した。

これに対して記者からは、それでも2%のインフレ目標にこだわることの是非に関する質問があった。この点に関しては、別な記者も、ある経済閣僚が2%インフレを気にしているのはメディアと日銀だけであると発言したとの報道に言及した。黒田総裁は、できるだけ早く2%インフレを達成するとの考えには全く変化がないし、こうした方針はMPMメンバーの間でも共有されているとの理解を示した。

金融政策の運営

ご覧のように、前日(14日)には日銀がETF買入れの強化に踏み切るとの思惑がみられた。その割には、今回(3月)の記者会見では追加緩和に関する質問は少なかった。その中ではある記者が、最も直接的に追加緩和の条件について質問したが、黒田総裁は、先に見たようなわが国経済の先行きに対する前向きな見方を再度説明することで、直接的な回答を避けた。

別な記者は、ETF買入れについて、市場流動性やコーポレートガバナンスへの影響の面から副作用を取り上げた。これに対して黒田総裁は、前者に関しては(Topix連動型の買入れウエイトを増やす形で)既に対応策を講じてきたこと、また、後者に関してはファンドの受託者に対して、スチュアードシップコードに即した形で議決権を行使するよう委託していることを各々指摘し、副作用は深刻でないとの理解を示唆した。

さらに別の記者は、QQEの一環としてのマイナス金利政策の評価を質した。黒田総裁は、まず、欧州のいくつかの中央銀行もマイナス金利政策を実施しており、しかも対象となる当座預金のウエイトや金利のマイナス幅は 日本より大きい点を説明した。その上で、マイナス金利政策による銀行収益への影響について様々な議論があるとしつつも、日本においてもマイナス金利政策は所期の効果を発揮しているとの自信を示した。

この記者も、金融庁が銀行検査において収益力のチェックを強化するとの新聞報道を意識して質問したものと思われる。低金利環境だけが銀行の収益力を低下させている訳ではないが、QQE以前も含めて長期に亘って低金利環境が続いている点では、欧州とは状況が異なる面もある。一方で、監督当局の懸念は、将来の景気後退によって信用コストが上昇した場合、現在の収益力では吸収しきれないことであろうが、それを金融政策だけで解決しようとすることにも限界があるように見える。

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