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3月FOMCのMinutes-Fine balance

2019/04/11

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はじめに

今般公表された前回(3月)FOMCのminutesによれば、景気や物価の見通しを下方修正した割には、多くのメンバーが景気のモメンタムの短期間での回復シナリオを維持していたようだ。その意味では、FOMC直後のパウエル議長の記者会見のトーンとむしろ整合的な印象を受ける。

景気と物価の評価

実際、FOMCメンバーによる議論では、海外景気の減速や減税効果の減衰に伴って、2019年の経済成長率が前年よりも幾分低いと予想しつつも、今期(第1四半期)のような経済活動の弱さがそのまま継続することはないとの見方を示している。

このうち家計については、12月以降の小売売上高の落込みが顕著であると認めつつ、政府機関の閉鎖や金融市場の不安定化等の一時的な要因の影響が強いとの理解を示し、こうした要因が解消した後はセンチメントにも改善がみられる点を指摘した。

設備投資に関しても、企業収益の下方修正やエネルギー価格の低迷、外需の弱さといった要因のために、足元で減速していることを認めつつも、多くの(many)メンバーがそうした傾向が解消する兆しを指摘した。その証拠としては、労働需要の強さ、センチメントの改善、金利の低下などを挙げている。

物価に関しても、足元の動きはやや弱いが、今後数年にわたって目標近傍で推移するとの見方が維持されている。その上で、多くの(many)メンバーは、雇用のタイト化に伴う名目賃金の上昇や、関税の引き上げにもかかわらず、インフレ率が加速する兆しがみられない点に改めて注目を示している。

この間、インフレ期待に関しては、市場ベースだけでなくサーベイベースでも低位である点を確認した上で、数名(several)のメンバーが、長期のインフレ期待が抑制されている点がインフレ目標の持続的な達成を阻害していると主張した。このような議論は、現在進行中の金融政策の見直しに関係する可能性があろう。

パウエル議長が既に記者会見で説明したとおり、FOMCによる先行きのリスク評価は下方に傾いている。この点に関しては、2名(a couple of)のメンバーが、貿易摩擦やBrexit等の面で海外経済に大きな不透明性があると指摘したが、年初よりも深刻さは低下したとの指摘もみられた。

FOMCメンバーは、欧州や中国の予想以上の景気減速や財政支出の急減といった下方リスクも指摘した一方、上方リスクとして、こうした不透明要因の解消、家計や企業のセンチメントの改善、生産性向上に伴う潜在成長率の上昇といった要素を挙げた。

金融政策の運営

こうした議論を踏まえて、前回(3月)のFOMCは金融政策の現状維持を決定した訳であるが、FOMCメンバーは政策金利に関する判断を「忍耐強い(patient)」アプローチに沿って行うことに概ね(generally)合意した。

ただし、数名(several)のメンバーが、経済見通しとその不透明性に即して、patientなアプローチも定期的に見直すべきと主張したのに対し、2名(a couple of)のメンバーは、必要に応じて金融政策を調整することへの制約になる訳ではないとの反論を提示した。「patient」の表現は弱い意味でのフォワードガイダンスを示唆する面もあるだけに、この点は(後でみるように)利上げ再開の可能性も念頭におくのであれば尚更、今後の議論が必要になりうる。

その上で、今後の政策判断に関しては、大多数の(a majority of)メンバーが、現在の経済見通しとそのリスクに照らすと、本年内は政策金利を現状のまま維持する可能性が高いとの予想を示した。ご覧のように、米欧のメディアによる3月FOMCに関する報道の多くは、この文章に着目して「少なくとも年内は利上げなし」との解説を加えている。

ただし、こうした記述の直後には、今後のFOMC会合における政策金利の判断は、広範な経済指標に基づく経済見通しの見直しや、景気に関するリスクの現れ方に基づくとの方針を引続き強調したことも明記されている。

しかも、数名(several)のメンバーは最適な政策金利に対する見方が、今後、上下双方の方向に変化しうると述べたほか、数名(some)のメンバーは、経済が予想通りに潜在成長率を超えるペースで推移すれば、本年後半に緩やかな利上げが適当と判断する可能性がある点も指摘した。

このように、前回(3月)のFOMCの議事要旨は、経済見通しの下方修正や上記の一文が示唆するほどに慎重な議論ばかりではなかったことを示唆している。これは、冒頭に述べたように、FOMC直後の記者会見で、パウエル議長が経済見通しに関するメインシナリオが変わった訳ではない点を説明したこととも整合的である。

この間、金融市場では本年初からFRBの政策運営に関するハト派な理解が支配しており、それが今回の議事要旨の公表によって大きく変わることは考えにくい。また、株価が反発しクレジットスプレッドが縮小したことに伴う金融環境の好転は、少なくとも企業や家計のセンチメントの回復にも実際に寄与している。

そうした下で、FOMCが金融市場の理解を細かく修正すべきか、それとも意思疎通には多少の問題があっても、金融経済や政策運営の支障にならない限りそのままにしておくかは、興味深い論点になりそうである。

当座預金の運営

前回(3月)のFOMCではバランスシートの運営方針の修正を決定したが、再投資の再開に伴って資産側の規模が一定になった後の超過準備の運営についても、技術的だが重要な議論がなされた。つまり、銀行券などの需要が増え続けると、それに伴って当座預金が減少することにどう対応するかである。

議事要旨によれば、短期金利の不安定化を防ぐため、国債の追加買入れによって当座預金の残高を安定せせるべきとの意見と、最終的に必要最小限の国債を保有する方針に整合的な形で、当座預金の減少を容認すべきとの意見に分かれたようだ。

前者の対応には、技術的な国債買入れが量的緩和の再開と誤解されるおそれもある。この点は今後のFOMCでの継続審議となったが、筆者は短期金利の調節能力を確保する観点から、前者が望ましいように思っている。特に、調節能力が重要になる利下げ局面では、「誤解」も政策効果に取り込むこともできる訳である。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融ITイノベーション研究部

    主席研究員

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