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コラム 井上哲也のReview on Central Banking

FRBのパウエル議長の記者会見-Transitory

2019/05/03

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はじめに

今回(5月)のFOMCは金融政策の現状維持を決定した。同時にパウエル議長は、今後の政策運営についてあくまで中立的なスタンスを強調し、利下げ期待を牽制する結果になった。

景気の評価

今回(5月)の声明文では、前回(3月)のFOMC以降に経済活動が力強く(solid rate)拡大したことを確認している一方、個人消費と設備投資の成長率が本年第1四半期に減速したことを併記している。これは整合的でないように見えるかもしれないが、内需に減速感があるとしても、実質GDP成長率は(在庫投資を除いても)潜在成長率を明確に上回ったことを評価したものであろう。

実際、パウエル議長は冒頭説明や質疑応答を通じて、雇用や所得は引続き力強く拡大し、センチメントも高水準であるなどファンダメンタルズ全体が良好に維持されているとの見方を確認し、個人消費の先行きについて前向きな見方を示した。

設備投資に関しても、これまでは貿易摩擦や中国と欧州の景気減速、Brexitを巡る不透明性などによって影響されたとの理解を示すとともに、これらを巡る不透明性が前回(3月)の時点に比べれば幾分後退したとの見方を示すことで、下押し圧力が徐々に解消することへの期待を示唆した。

これらを総括する形で、パウエル議長は冒頭説明の中で、米国経済が前回(3月)FOMCの際に示した見通しに概ね沿った形で推移しているとの理解を示した。

この間、FRBの金融政策に関しては、トランプ大統領による批判が続き、今回(5月)のFOMC直前にも、景気拡大のために1%の利下げや量的緩和の再開が必要とのtweetを行ったようだ。 パウエル議長は、今回(5月)のFOMCではこうした批判について議論しなかったと説明したが、景気に対するconstructiveな見方はトランプ大統領に対する実質的な回答になっている面もある。

物価の評価と政策運営

これに対し、今回(5月)の声明文は物価に関してはやや慎重な見方を示唆している。つまり、総合インフレ率のみならず、コアインフレ率も2%を下回って推移していることを明記しており、前回(3月)の声明文が総合インフレ率の減速のみに焦点を当て、背景として(それまでの)エネルギー価格の下落に言及していたことに比べると、一歩踏み込んだ内容になっている。

このため、今回(5月)の記者会見では多くの質問がこの点に集中することになった。

まず、コアインフレ率の減速については、パウエル議長は、金融サービス価格の計測や航空運賃の改定などの要因を挙げつつ、刈り込み平均のような別な指標でみれば概ね安定しているとして、現時点で懸念している訳ではないことを示唆した。加えて、上記のように雇用や賃金が堅調に拡大している点を指摘し、冒頭説明と質疑応答の双方において 、 足元での減速が一時的(transitory)との見方を強調した。

その上でパウエル議長は、少なくとも現時点で金融政策を上下いずれかの方向に調整すべき理由は存在せず、金融政策の現状に対して満足している(comfortable)として、政策変更の評価に関する忍耐強い(patient)スタンスが適切との判断を強調した。この点では、利下げへの道筋を示唆するのではないかという市場の一部の期待とは異なる結果となった。

それでも、多くの記者はどのような条件があれば金融緩和に踏み切るかを質した。これに対してPowell議長は、具体的な条件に言及するのを避けつつ、FRBとして上下対称的な物価目標の達成にコミットしており、従って、インフレ率が目標を持続的に下回る状態になれば、インフレ期待の低下に繋がる恐れがあるだけに、 FRBとして懸念を持つと説明した。

しかし、少なくとも一部の記者はインフレ率の減速が一時的との見方に合意せず、コアインフレが安定的に2%を上回ったのは、近年では金融バブルの時期だけであり、インフレ率の引き上げには金融システム安定とのトレードオフがあるとの指摘も示された。

パウエル議長は、常にそうした関係が成立する訳でないとしつつも、景気拡大の下でインフレ率が上昇しない現象はFRBに限らず多くの中央銀行が共通して直面しており、その背景には人口動態などの構造要因があるとの見方を示唆した。また、別な質問に対する回答の中で、労働生産性の伸びが足元で改善している点も指摘し、インフレを抑制している可能性を示唆した。

一方、パウエル議長は、金融政策との関係では、金融システムの動向は物価に対する影響の視点から考慮する原則を確認するとともに、金融システムの安定は第一義的にはマクロ・プルーデンス政策や規制・監督によって維持されるべきとの理解を確認した。

記者の質問には短期と長期の視点が混在している点で問題がある。しかし、いかなる理由であれ実際のインフレ率が目標に達しない状況が生じ、そのことがインフレ期待の安定性を損なうようであれば、FRBも看過しえない状況になる。その意味では、トランプ大統領の批判も、低インフレの下でなぜ「正常化」なのかという昨年の主張の方が厄介だった。

しかも、一部の記者が主張したように、昨年は財政刺激によって経済が過熱したからインフレ率が目標をクリアしたとの理解も、全否定することは難しい。だとすれば、今年は「一時的」な要因が剥落したため、インフレ率が減速したとの解釈も可能になる。いずれにせよFRBには、現在進行中の金融政策運営の見直しの中で、低インフレの背景やその構造的な性格について、より明確な説明を用意することが求められる。

バランスシート調整

パウエル議長は冒頭説明で、今回(5月)のFOMCで保有資産の最終的な期間構成に関する予備的な議論を行ったと説明した。その中で、その選択が多くの複雑な問題を惹起するとともに、金融政策に意味合いを持ちうる点を指摘しつつも、円滑な調整が可能となるように方針は十分前倒しして公表すると表明している。

金融政策の運営との関係に絞って言えば、期間構成を危機前に戻す形で再び短期化すべきか、それを金融緩和の際に行いうるかが焦点となる。バランスシート規模の縮小を巡る昨年来の市場との対話を踏まえると、FRBにとっては、期間構成の変更を「機械的」と説明することは難しく、政策運営と整合的に進めることが必要となる可能性は高い。

執筆者情報

井上 哲也

金融ITイノベーション研究部

主席研究員

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