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5月FOMCのMinutes-Maturity extension program

2019/05/23

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はじめに

5月FOMCの議事要旨(Minutes)は、パウエル議長が記者会見で説明した金融経済の見方や政策運営について、大きな意見の相違がないことを示唆している。一方で、バランスシート運営の中長期的な戦略について興味深い議論が行われたことも示している。

景気と物価の判断

経済指標の安定化を映じて、FOMCメンバーによる景気に関する議論には安堵感が伺われる。なかでも個人消費は、雇用や所得、純資産といったファンダメンタルズが堅調であるだけに、拡大を維持するとの見方がコンセンサスになっている。また、年初の低迷には、税還付の遅れや金融市場の不安定化といった一時的要因も影響したとの執行部説明に異論はみられなかった。

設備投資は若干減速していたが、FOMCメンバーからは、金融環境の緩和やセンチメントの高さに加え、海外経済に関する懸念が過剰であったことが指摘され、昨年より緩やかだが拡大を続けるとの見方が目立つ。海外経済に関しても、英国を含む欧州の経済指標は軟調であったが、執行部は中国経済の安定化を指摘し、 FOMCメンバーも総じて海外からの下方圧力が減退したとの見方を共有している。

景気判断と整合的に、FOMCメンバーの間では物価が目標近傍で推移するとの見方がコンセンサスである。足許の軟化については、衣料品価格や資産運用サービス手数料の下落といった一時的要因への言及がみられたほか、刈り込み平均のような基調的指標が安定を示していることが確認されている。

ただし、数名(some)のメンバーは長期のインフレ期待が下方にシフトするリスクに言及している。また、賃金上昇が物価に波及しにくい現状については、足元での上昇が低賃金労働に偏っている可能性や、(日本と同じく)企業経営者が「technological solutions」によって対応している可能性が指摘されている。

金融環境の評価

今回(5月)のFOMCは、執行部による金融システム安定に関するレビューとそれに基づく議論が行われる会合に当たる。

執行部は、株価の反発やクレジットプレミアムの縮小、金融市場のボラティリティの低下といった要因によって、企業や家計にとってのfinancial conditionが好転したとの評価を示した。その背景については、米国や中国での経済指標の好転や米中貿易摩擦に関する見通しの改善とともに、政策金利見通しの下方修正を要因として挙げている。加えて、こうした状況が、執行部による中期の景気見通しの上方修正に繋がったと説明した。

FOMCメンバーも、financial conditionの好転が経済活動に貢献するとの見方では一致した。ただし、事業法人の負債が高水準である点だけでなく、社債やレバレッジローンの足許の状況にも留意が示されている。つまり、執行部は、これらの資金調達手段が高水準で増加し、金利以外の条件にも緩和的なものがみられるとした。FOMCメンバーの中でも数名(a few)が、事業法人に対する景気後退の影響が大きくなるリスクを指摘したほか、他の2名(a couple of)のメンバーも一部の資産価格が過大評価になっている可能性を指摘した。

もちろん、別な2名の(a couple of)メンバーが確認したように、強化された銀行の自己資本、力強い経済成長や企業収益によって金融システムの安定は維持されるというのが中心的な見方とみられるが、数名(a few)のメンバーが強調するように、FRBが刊行したFSRによって、金融システムの一部のセグメントに存在するリスクに関する議論が進むことが期待されている。

バランスシート運営の戦略

今回(5月)のFOMCでは、バランスシート運営の中長期的な戦略に関する議論も行われた。まず、執行部が①バランスシートの着地点に関する選択肢(市場中立型(proportional) と短期型(shorter maturity))、②着地点に収斂する速度に関する選択肢(高速と低速)を提示し、市場金利ひいては実体経済へのインパクトや政策運営への意味合いに関する違いを整理した。

つまり、①に関しては、短期型の下ではterm premiumに大きな上昇圧力が生ずるため、政策金利のパスはその分だけ低くする必要がある。②に関しては、高速型の下では、保有しているMBSの償還における再投資の対象を、(現在のような)長期国債でなくTBとすることになる。

これを受けた議論では、まず①に関して、多くの(many)メンバーが、短期型の場合に保有債券の満期構成の長期化(maturity extension program<MEP>)の余地が大きくなるメリットを指摘し、自然利子率の低下によって政策の発動余地が限定される下での重要性にも言及した。

これに伴う中立的な政策金利に対する影響についても、多くの(a number of)メンバーが理論モデルの仮定に起因する不透明性が大きいとし、金融危機後の経験をもとにterm premiumの変化を想定することが過大評価に繋がるリスクや、米国債の供給面での変化の可能性も考慮に入れるべき点などを指摘した。

もっとも、数名(some)のメンバーはterm premiumの上昇リスクに懸念を示すとともに、MEPの政策効果自体にも疑問をなげかけ、ELBの下ではフォワードガイダンスや大規模な資産買入れの方が有効との考え方を示唆した。

これに対し、市場中立型は現行の枠組みと整合的な形で運営しうるとの理解が共有された一方、数名(a few)のメンバーはイールドカーブのフラット化を通じたリスクテイクのインセンティブ強化に繋がる可能性を指摘した。しかし、他の数名(a few)は、短期型でも、民間部門による短期債発行の増加を通じて、金融システム安定に影響する可能性を指摘した。

最後に、②に関しては、数名(several)のメンバーが低速型によって金融環境への不要なインパクトを避けうるメリットを指摘した一方、着地までに長期間を要するとの執行部の推計も注目され、他の数名(a few)のメンバーは、MBSの市場売却も含む付加的なオプションの可能性を提起した。

数名の(several)メンバーが指摘するように、この方針は急いで決める必要がある訳ではなく、他の政策手段に影響する点でも現在進行中のレビューの一環として明らかにすべきものであろう。その際には、数名の(several)メンバーが指摘したように、最終着地点だけでなくそこへのパスも含めて理解を共有する必要がある。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融ITイノベーション研究部

    主席研究員

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