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コラム 井上哲也のReview on Central Banking

FRBのパウエル議長の記者会見-Sustain the expansion

2019/06/20

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はじめに

今回(6月)のFOMCは金融政策の現状維持を決定した。もっとも声明文では、経済見通しに関する不透明性とインフレ圧力の弱さを指摘し、景気拡大の維持に向けて適切な政策対応を行う姿勢を明記した。dot chartも年内に2回の利下げを予想するメンバーが相当なウエイトに達したことを示すなど、全体として金融緩和バイアスをアピールする内容となった。

景気と物価の判断

米国景気の現状については、声明文の中で、景気拡大のペースに対する評価を力強い(solid)から緩やか(moderate)に下方修正するとともに、設備投資に関する指標の弱さを指摘している。一方で、個人消費は年初の弱い状況から回復したとしており、質疑応答の中でもパウエル議長は、雇用や所得、マインドといったファンダメンタルズの良好さを強調した。

より長い目で見た経済の展望に関して、今回改訂された見通し(SEP)は、実は前回(3月)とほとんど変わっていない。つまり、2019~21年についての実質GDP成長率見通し(median)は、+2.1%→+2.0%→+1.8%とされ、前回(3月)からの変化は2020年が+0.1pp上方修正されただけであった。ただし、この2020年の見通しのレンジは、前回(3月)が+1.7%~+2.2%であったのに対し、今回(6月)は+1.5%~+2.3%へ主として下方に拡大した。

物価の現状に関しては、声明文の中で、コアインフレ率が目標を下回ったまま推移している点に言及するとともに、市場ベースのインフレ期待が低下したと評価した。加えてパウエル議長は、記者会見の冒頭説明でサーベイベースのインフレ期待も長い目で見て低い状況にあることを確認するなど懸念を示した。

ただし、より長い目で見た物価の展望も、今回改訂された見通し(SEP)は前回(3月)からあまり変わっていない。つまり、2019~21年についてのコアPCEインフレ率見通し(median)は+1.8%→+1.9%→+2.0%とされ、前回(3月)に比べて、2019年が0.2pp、2020年が0.1ppだけ各々下方修正された。なおレンジに関しては、2019年について、前回(3月)が+1.8%~+2.2%であったのに対し、今回(6月)は+1.4%~+1.8%へ下方にスライドしたことが注目される。

これらを踏まえると、FOMCとしては、緩やかな景気拡大の継続というメインシナリオを堅持する一方、先行きに関する不透明性が従来よりも増したと評価したことがわかる。この点も声明文に明示されているほか、パウエル議長は、記者会見の冒頭説明や質疑応答の中で、前回(5月)のFOMCの時点に比べて、貿易摩擦の展開や海外経済の動向を中心に不透明性が高まったとの見方を強調した。

政策判断

今回(6月)のFOMCは金融政策の現状維持を決定したが、本コラムの冒頭に述べたように、今後の政策運営についての緩和バイアスも明確に示した。つまり、声明文には、今後の経済指標が見通しに対して持つ意味合いを密接にモニターするとともに、景気拡大の維持に向けて適切な政策対応を採ることを明記した。

2019~2021年の各年末の政策金利の見通し(median)も2.4%→2.1%→2.4%となり、前回(3月)に比べて、2020年末が0.5pp、2021年末が0.2pp下方修正された。この点をdot chartからみると、2019年末に1.875%と予想するメンバーが7名に達し、2.375%と予想するメンバー(8名)と拮抗したことが注目される。

つまり、少なくとも今回(6月)のFOMCでは、年内2回の利下げを予想する意見と、年内は現状維持を予想する意見とに大きく分かれたことが示唆される。

政策金利の見通しに関しては、さらにいくつか興味深い点がある。一つは、現時点では利下げの継続を予想する向きは見られない点である。Dot chartをみると、2020年末の政策金利見通しの下限は1.875%で2019年末と変わらず、それを予想するFOMCメンバーの数も7名で同じである。さらに、2021年末も下限は同じ1.875%であり、それを予想するメンバーの数は5名に減少し、予想の分布は上方に分散している。

この点は先に見た経済見通しのメインシナリオと整合的であり、ハト派のメンバーも含めてFOMCとしては、下方リスクに対応するための利下げは行うが、そうした要因が落ち着けば、政策金利をそのまま維持するか、中立水準(下記参照)に戻すかという選択になると判断していることが推察される。

もう一つは、「長期」の政策金利(事実上の中立金利)に対する見方が下方修正された点である。つまり、前回(3月)のmedianは2.8%であったに対し、今回(6月)は2.5%になった。dot chartをみても、2.5%と評価するメンバーの数が8名に達し、相応のコンセンサスになったことが推察され、つまり、現在の政策金利(レンジの中心は2.375%)を概ね中立的とみていることになる。

これらを踏まえて、記者会見では今回(6月)のFOMCが利下げを見送った理由を問う質問が目立った。これに対しパウエル議長は、①経済の先行きに関する不確実性が前回(5月)のFOMC以降に急速に高まっただけに持続性を見極める必要がある、②そうしたリスクが経済に与える影響やそのメカニズムを理解する必要がある、といった点を指摘した。

また、パウエル議長は、不透明性の源泉として貿易摩擦の影響を認めつつも、一つの事象に対応して金融政策を運営するわけではない点も強調し、欧州の景気指標が再びモメンタムを失った点や中国当局によるデレバレッジ政策の影響、原油価格の上昇による(消費国での)購買力の低下などの点で、海外経済の先行きについても懸念を有していると説明した。このため、仮に米中の貿易摩擦が改善しても、それだけで利下げを踏みとどまるとの仮説には否定的な考えを示した。

その上で、当面の政策運営に関しては、上記の①や②の点は次回(7月)のFOMCまでにはより良く評価しうると説明し、次回会合での利下げを示唆した。米国市場がポジティブに反応したのは、主としてこの点によるものであろう。

加えて、今回(6月)の声明文やパウエル議長の記者会見での説明で、利下げが経済成長の維持のために行われることが強調された点も市場に歓迎されたかもしれない。なぜなら、FOMCが事態の推移に対してフォワードルッキングに対応している印象を与えるだけでなく、トランプ大統領との間でも実質的に目標を共有している印象を与えるからである。

執筆者情報

井上 哲也

金融ITイノベーション研究部

主席研究員

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