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コラム 井上哲也のReview on Central Banking

6月FOMCのMinutes-Downside risks

2019/07/11

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はじめに

金融市場では、パウエル議長が議会証言の冒頭発言で、景気減速のリスクに対する適切な対応を明確に示唆したことが注目を集めている。この点に関しては、今般公表された6月FOMCのMinutesも、当然ながら、同じメッセージをアピールするものとなっている。

景気の判断

執行部とFOMCメンバーともに、足元の経済活動は堅調であり、むしろ個人消費は年初の弱い動きから回復した点を確認している。その上で、今後については不透明性が高まっただけでなく、減速のリスクが急速に高まったとの理解で概ね一致した。

言うまでもなく、その根本的背景は米中の貿易摩擦と海外経済の減速であり、しかも前者は欧州などへも拡大する可能性があるという意味で、後者と密接に関わっている。

FOMCメンバーは、こうした問題が米国の内需に与える経路として設備投資に着目し、6月FOMCにおいて長時間にわたって議論を行ったようだ。具体的には、①資本財の生産や出荷の弱さ、②製造業に関するサーベイ結果の弱さ、③企業収益の先行き期待の低下、といった要因からみて、今後の設備投資が減速する可能性が高いとの見方が大勢を占めた。

さらに、現在の米国では、自然災害の連続によって農業セクターが疲弊しているほか、原油価格が不安定化する中で鉱業セクターもモメンタムを失うなど、設備投資の不振が多様な産業に同時に影響を与える恐れがあることも意識されている。

これに対して、家計については相対的に堅調との評価がなされてはいるが、6月FOMC前に公表された雇用統計が弱かったこともあって、雇用拡大の変調に注目すべきとの議論も見られる。もっともこの点に関しては、地区連銀の総裁と思われる数名のメンバーから、担当地区内の企業では新規雇用への意向が依然として強いとの反論も示されている。

こうした議論を踏まえて、景気の下方リスクが一層高まったとの見方で概ね一致し、メンバーからは、連邦政府の債務上限問題への対応が遅れると、景気に無視しえない影響を与えうる可能性や、民間の非金融法人の債務水準が高いため、景気後退による波及効果が大きくなりかねない点が指摘された。

こうした悲観的なトーンでの議論にも反論はあり、例えば貿易摩擦が予想外に早く収束すれば、企業のマインドが回復して、景気を押し上げるとの展望も示されている。もちろん、そうした可能性も一定の合理性は有しているが、上記のように仮に米中が妥協しても、トランプ政権が他の様々な国や地域に問題を提起している以上、金融市場が懸念し始めたように、先行きの不透明感はなかなか払拭しがたいように見える。

物価の判断

6月FOMC直後のパウエル議長会見ではあまり明確ではなかったが、今回公表されたMinutesによれば、メンバーは景気と同様にインフレの先行きにも懸念を高めていたようだ。この点は、すぐ後にみるように、今後の政策判断とも密接に関連している。

つまり、国内景気に停滞感が強まり、海外経済は減速がより明確になる中では、米国内の物価にモメンタムが高まらないのは当然とした上で、一部のメンバーは、インフレ率が安定的に2%を超えるまでには、当初の想定よりも多くの時間を有するとの見方に傾いた。

さらに、市場ベースはもちろん、サーベイベースのインフレ期待にも足元で軟化の兆しがみられるほか、中長期のインフレ期待も低下し、インフレ目標との間で既に整合的でなくなったことを懸念する向きも見られる。

政策判断

6月FOMCは、こうした議論の末に金融政策の現状維持を決定した訳であるが、その理由に関しては、パウエル議長が記者会見で説明したように、状況の悪化が急速かつ短期間であったので、その意味合いを見極めることが重要との考えであったようだ。

その一方で、今回公表されたMinuteによれば、メンバーの殆ど全員が今後の政策金利の予想パス(つまりドットの位置)を引き下げたようであり、結局のところ、利下げは時間の問題という点も明確に示唆されている。

今後の利下げの趣旨に関しては、各々数名のメンバーが、①景気後退が実現した場合のインパクトを緩和する、②インフレ期待の低下を食い止める、③「長期」失業率が一層低下したことで、賃金を経由したインフレリスクは小さい、といった点を挙げている。

FRBのいわゆるデュアルマンデートのうちで、雇用が文字通り最大化されている下でも利下げをしようとすれば、インフレを理由にせざるを得ないのは当然であり、実際、上記のようにインフレには相応の変調がみられる。

ただし、少なくとも金融市場から見れば、米国経済の先行きに関する不透明性の高まりが、Financial Conditionをタイト化していることも事実であり、利下げはこの問題への対応であると説明してもらった方が素直に理解しうる面もある。実際、今回のMinutesにも、FOMCによる金融政策運営に関するコミュニケーション―つまりは利下げの示唆-がFinancial Conditionの好転を通じて景気を支えたことを認める議論が含まれている。

Standing facility

なお、今回のMinutesの冒頭には、6月FOMCにおいてStanding Facilityの導入に関する議論があったことが記載されている。詳細は未定だが、要するにFRBが固定金利かつ有担保での資金供給を常時開設しておくものである。

こうしたfacilityがあれば、金融機関による予備的な準備需要が減少することを考えると、執行部はバランスシートの「正常化」の中で検討を進めてきたとみられる。その意味では既に局面が変わったとも言えるが、長い目でみてバランスシートの規模を削減しつつ、金融機関に担保目的での国債買入れを促すことで、国債市場への負担も抑制しようとするものである。

ただし、容易にわかるように、このfacilityは金融機関に対する流動性支援としての役割も果たしうるだけに、かつてのdiscount windowと同じく金融システムの安定やモラルハザードの防止といった点からも検討が必要であり、実際に6月FOMCではそうした観点も含めた多角的な議論が行われたようだ。

執筆者情報

井上 哲也

金融ITイノベーション研究部

主席研究員

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