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FRBのパウエル議長の記者会見-Well positioned

2019/12/12

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はじめに

今回(12月)のFOMCは、市場の予想通りに金融政策の現状維持を決定した。しかも、景気や物価の中心的な見通しを前回(9月)と概ね不変に維持するとともに、2020年中の政策金利は現在の水準で推移するとの見通しを示した。

景気と物価の見通し

足許の経済情勢に関する声明文の表現は、前回(10月)のFOMCと全く同じである。つまり、労働市場が強い状況に維持される下で家計支出は力強く拡大しているが、設備投資と輸出は弱いままであり、コアインフレ率が2%を下回って推移する一方、インフレ期待には大きな変化がないとしている。

今回改訂された景気や物価の見通しも概ね不変に維持された。このうち、2020~22年の実質GDP成長率は、medianでみて+2.0%→+1.9%→1.8%と、前回(9月)と全く同じであるほか、見通しのレンジも2020年が若干上方にシフトした下以外、大きな変化はみられない。この間、失業率の見通しは、足許の低下を反映して若干の下方修正がなされたが、2020~22年のコアPCEインフレ率は、同じくmedianでみて、+1.9%→+2.0%→+2.0%と、こちらも前回(9月)と全く同じである。

先行きのリスクに関しても、前回(10月)の声明文にあった「見通しに対する不確実性は残る」との表現が今回(12月)は削除されたが、記者会見の質疑応答で、パウエル議長はFOMCとして不確実性に関する判断を変えていないとの説明を行った。

こうした判断に対して、記者からもその妥当性を問う質問は少なく、数名の記者が貿易摩擦の展開如何による影響を取り上げるに止まった。これに対しパウエル議長は、何らかの合意があれば不確実性の低下を通じて経済に好影響を与えるが、今後の展開にはなお不透明性が残るとの見方を確認した。

むしろ、多くの記者が、失業率の一段の低下に関わらず物価上昇の加速がみられない点を改めて取り上げた点は興味深い。今回(12月)の見通しで失業率を下方修正した一方で、物価の基調は不変としたことが直接的な背景であろうが、より重要な点は後述するように今後の政策スタンスとの関係である。

この点に関してパウエル議長は、過去に比べて関係が弱い点を確認し、その原因として、長い目で見たグローバリゼーションの影響や足許での労働生産性の改善を指摘したほか、低賃金労働での賃金上昇が平均の押し上げに寄与しにくい点を指摘した。一方、失業率と賃金との関係には相関が明確に存在し、失業率と物価との間にも弱いながらも相関は残っているとした。

政策判断

今回(12月)のFOMCは全会一致で金融政策の現状維持を決定した。また、パウエル議長は、記者会見の冒頭説明で、現在の政策金利が、景気を維持し、物価を目標に向かって押し上げる上で最適な水準にあるとの判断を示した。

実際、今回(12月)改訂された2020~22年の各年末時点での政策金利の見通しは、medianでみると、1.6%→1.9%→2.1%とされ、前回(9月)に比べて、全期間にわたって0.3pp程度下方修正されている。ただし、本年末の見通しも前回(9月)の1.9%から1.6%へ引き下げられた点も踏まえると、今回(12月)の見通しは、10月FOMCで政策金利を引き下げたこと反映し、シンプルに下方に平行移動したと理解できる。

今回(12月)のdot chartも興味深い特徴を示している。第一に、大多数のメンバーが2020年末の政策金利を1.625%と予想しており、つまり来年を通じて政策金利の現状維持が続くとの見方が現時点のコンセンサスとなっている。

第二に、2021年末については、1.625%から2.375%にかけて予想が概ね均等に分布しており、次の政策変更が利上げである点でコンセンサスがある一方、その幅には意見の相違があることが示唆される。因みにこの点は、次の政策変更が利下げであるというパウエル議長の以前の説明とは異なるが、この点を突いた質問はみられなかった。

記者からは、2020年を念頭に、失業率と物価との関係の希薄化の下で、政策金利を低位に維持しても物価目標の達成に繋がらないリスクや、その結果として信認を毀損する惧れが挙げられた。これに対しPowell議長は、希薄ながら相関は存在する点を確認するとともに、FOMCメンバーが引続き2.5%と推計する中立金利よりも十分低い水準に政策金利を維持することの意義を強調した。

一方で、より長い時間的視野を念頭に、利上げの条件を質す向きもみられ、同じく保険的な利下げを行った1995年の局面との比較や、インフレ期待をアンカーするためのインフレのオーバーシュートの可能性などが取り上げられた。

前者についてパウエル議長は、利下げの理由は同じだが、インフレの構造は全く異なると指摘し、1995年のように保険の意味合いが薄れた段階で、政策金利を単純に元の水準に戻すといった対応は今回の場合に適切ではないとの考えを示唆した。

後者は、現在進行中である金融政策の見直しとの関係を意識した質問であるが、パウエル議長は、今回(12月)の見通しが示唆するように、政策金利を相対的に低位に維持しても、インフレ率が顕著に加速する可能性は低いとの理解を確認した。その上で、金融政策の見直しについては、今回(12月)のFOMCでも議論の進展があったことを説明するとともに、インフレ目標のアンカーは信認の強化に寄与するとして、非対称的な目標の運営を弁護した。

レポ市場への対応

今回(12月)の記者会見でも、数名の記者がこの問題を取り上げ、年末にかけて現在の対応で十分かという点や、より抜本的な措置が必要ではないかといった点が取り上げられた。

パウエル議長は、オペとTB買入れによって金利上昇圧力は抑制されているとしつつ、年末にかけて市場参加者とのコンタクトを密接に維持しつつ、機動的に対応する考えを強調した。

また、より長期的な観点で金融規制の影響を含む構造的な背景を精力的に検討しているとしつつも、standing facilityの導入なども含めて、制度的な対応には条件の設定や外部の意見聴取などに数ヶ月単位の時間を要すると説明し、当面は現在の手段を駆使して事態を乗り切る方針を示唆した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融ITイノベーション研究部

    主席研究員

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