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戦後最長となる景気回復の秘密

2019/01/25

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日本は戦後最長の景気回復

2019年1月で、日本は戦後最長の景気回復を達成した可能性が高い。この歴史的な長期景気回復の原動力は何だったのだろうか。その直接的なけん引役は、世界経済の歴史的な長期回復だろう。米国でも、間もなく戦後最長の景気回復が実現される。

多くの人が考えている以上に、日本経済は海外経済の影響を強く受ける。これは、国内要因、例えば国内での財政・金融政策が必ずしも大きく経済に影響しないことを意味する。日本経済が海外経済の影響を強く受けるのは、GDPに占める輸出比率や企業売上高に占める輸出及び海外売上高比率が高いためだけではない。例えば、世界経済が順調に回復する局面では、円安、株高傾向が強まり、これが日本経済を刺激する、という面もある。

世界経済の回復局面では、外需依存度が高い日本経済と日本株には追い風となりやすい。それは、日本の投資家のリスクテイク余力を高め、為替リスクをとった海外への投資を活発化させて円安傾向を生む。その円安が、また日本の投資家の海外投資を拡大させる、という好循環を生むのである。このように、金融を通じた側面も含めて、日本経済は世界経済の影響を強く受ける。世界経済が回復を続ける中、日本経済が現在比較的堅調であるのも、海外依存度の高さの裏返しだ。

しかし、そのことは、日本経済が内需主導型経済とはなっておらず、自律性が低いことの反映でもある。こうした状況の下で、世界経済が悪化に転じれば、日本経済はそれ以上に悪化してしまうだろう。既に述べた為替・株式と景気の間の好循環も一気に逆回転を始め、日本の投資家がリスク回避のために海外資金を引き上げる、あるいはそうした観測を反映して、円高傾向が進みやすくなる。それは、株式の調整圧力も通じて日本経済の下方リスクを高めるだろう。

歴史的長期回復は経済の潜在力低下の反映

それでは、日本経済の戦後最長の景気回復を支えてきた、世界の長期景気回復をもたらしている要因は何だろうか。それは、日本を含め世界の経済の強さではなく、逆に弱さなのではないか。それがゆえに、日本においても戦後最長の景気回復には実感が伴わない、との意見が多く聞かれる。

日本では80年代のバブル崩壊後、欧米では10年前のリーマンショック後に生産性上昇率の低下、潜在成長率の低下が顕著となった。その結果、企業の中長期の成長期待は低下してしまった。中長期の成長期待が低いもとでは、仮に人手不足が深刻化しても、企業は賃金の引き上げ、特に固定費に繋がる正規社員の基本給引き上げに慎重になる。

賃金の抑制は物価上昇を妨げるため、景気回復が長く続いてもインフレリスクが抑制され続け、景気は過熱しにくい。そのもとでは、積極的な金融引き締め策がとられずに、比較的緩やかなペースで長い景気回復が実現されやすい。現在、世界経済の回復期間は歴史的な長さに達しているが、それは、このように世界経済の潜在力が高まっているからではなく、逆に潜在力が低下しているためではないか。

景気が過熱しない分、金融市場が過熱しやすい

既に見たように、歴史的な世界経済の長期回復の背景には、生産性上昇率や潜在成長率の低下といった経済の潜在力の低下がある。それがゆえに、景気回復が長期化しても景気が過熱しにくい反面、長期景気回復期待で金融市場の楽観論が行き過ぎ、また低金利の長期化が過度なリスクテイク行動を促すことで、金融市場が過熱しやすくなるのではないか。結果的には経済・金融の歪み、不均衡の形成が助長されやすい面がある。今の局面では、金融市場の歪みは債券(国債及び社債)市場で最も大きくなっているように思われる。こうした金融市場の自律的な調整が引き起こされれば、世界経済は緩やかで息の長い回復から、一気に失速してしまう可能性もあるだろう。世界経済にとって大きなリスクの一つは、金融市場の自律的な調整だ。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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