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動き出したデジタル課税創設の国際的な議論

2019/02/01

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OECDで「デジタル課税」の議論

GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれる米デジタル・プラットフォーマーに対する新たな課税の議論は、その舞台が欧州から世界へと広がってきた感がある。

経済協力開発機構(OECD)は1月29日に、こうした企業を念頭に置いた新たな企業課税、いわゆる「デジタル課税」の考え方についての論点整理を公表した。そこでは4つの案が示されたが、中でも米国が示した案が最も有力であり、それを支持する意見が高まっているとした。OECDは、2月中旬ごろに課税案の詳細を公表し、3月13~14日にはパリで関係者から意見を聴く予定だ。さらに議論を進めて、6月に福岡で開く20カ国・地域(G20)財務相会議で方向性を打ち出し、2020年末までの合意を目指すという。

新たな課税の必要性が議論される背景には、企業が支店などの拠点を設けた国で得た所得(利益)に法人税を課すという従来のルールでは、国境を越えたインターネット取引で莫大な利益を稼ぐGAFAなどデジタル・プラットフォーマーなどが適切に課税されず、他の企業と比べて不公平だ、との認識がある。今回示された米国案は、こうした企業が売上を出した国で、その売上高に応じて課税される制度だ。これは、欧州委員会が以前に示した案に近いものである。

欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は2018年3月に、デジタル・プラットフォーマーの税逃れ対策となる「デジタル課税」について、指令案を公表した。ところが、これら指令案については、EU内で各国間の意見が分かれ、合意に至っていない。その合意には、加盟国の全会一致が必要となるが、例えば、今まで低税率でデジタル・プラットフォーマーを誘致してきたアイルランドなどは、この欧州委員会案に猛反発している。そこで英国は、全世界の年間売上高が5億ポンド(約720億円)以上のIT企業から、英国内で利用された売上高の2%を税金として徴収する、独自の制度の導入を決めた。2020年4月に導入する計画だ。またフランスも、2019年1月から独自にデジタル課税を実施している。

具体的な枠組みにはなお議論が必要

このように、「デジタル課税」の議論は、欧州では大いに難航しており、各国が独自の制度を導入する動きが広まっている。しかし、GAFAの当事国でもある米国が、OECDにおいて独自案を示したように、積極的に議論に関与し始めたことは、今後、国際的な「デジタル課税」の制定に道を開くものであろう。他の案の中には、新たな課税をIT企業に限るというものもあったが、米国案はIT企業だけでなくすべての企業に適用されるものだ。

それでもなお、各国の利害の対立は続いており、日本がG20の議長国である2019年中に大きく議論が進展するかどうかはいまだ分からない。さらに、企業が売上を出した国で、売上高に応じて課税される制度となる場合、SNS等の事業では、ユーザーに無料でサービスを提供していることが多いことから、そうした事業に直接課税することはできない、という問題点もある。

フェイスブック、グーグルなどのデジタル・プラットフォーマーは、ユーザーが投稿する文章、動画などのコンテンツ、ネットの閲覧、検索履歴等の情報をターゲット広告に利用して、企業から広告収入を得るビジネスモデルだ。新たな制度のもとでは、広告主の所在国において、デジタル・プラットフォーマーの広告収入の一定比率が課税されるとしても、グローバルに広告活動を行う広告主企業がその所在地をタックスヘイブンに置けば、フェイスブック、グーグルなどが支払う法人税は、引き続き少額に抑えられてしまうのではないか。

このように、新たな「デジタル課税」について、仮に米国案が採用される方向だとしても、具体的な枠組みについては、なお議論の余地を大きく残している状況だ。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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